街角の利益−−プロフォーマ利益とIR活動−−

Street Earnings:Pro-forma Income and IR Activities


         OBE Accounting Research Lab, Osaka, Japan

                    岡部 孝好

                    Takayoshi Okabe



 1.会計数値と投資行動
 

 投資者たちがどの会計数値をみて、その投資行動を決めているかを見極めることは、IR活動における最も重要なポイントである。投資者たちが見向きもしない会計数値をいくら振り回したところで、その行動に影響を与えられないのだから、IR活動においては、まず相手側の目線に立ち、投資者がどの会計数値を頼りにしているかを正確に理解しなければならない。z

 会計数値(と財務比率)には貸借対照表系のもの、損益計算書系のもの、キャッシュフロー系のものが区別できるが、投資行動の選択において最も大きな役割を果たしているのは損益計算書系の数値である。貸借対照表系の数値はM&Aなどにおいて、またキャッシュフロー系の数値はIT企業の評価などにおいて使われていないわけではない。しかし、日常的な投資行動の選択において最も活躍している会計数値は損益計算書上の数値であり、特に株価に多大な影響を与えているのは利益数値である。会計数値と株価との関連性の強さは株価反応係数(price response coefficient)によって測定することができるが、この株価反応係数が最も高いのが利益数値なのである。

 2.利益数値の有用性
 

 市場に対する利益数値の公表は多段階損益計算書を通じて行われるから、利益数値にも多数のものがある。損益計算書(および包括利益計算書)の上から下へ向かって、売上総利益、営業利益、経常利益(日本だけのもので、海外にはない)、特別項目控除前利益(海外にはあるが、日本にはない)、当期純利益、包括利益(海外にはあるが、日本にはない)などが、順を追って表示されている。これらのいろいろな利益数値の中で、損益計算書の下の方の利益数値になればなるほど、株価反応係数が低くなっており、株価へのインパクトが薄れてくる。これは、下の方の利益数値には「ガラクタ項目」が混入されており、このため業績評価とか将来利益の予測が阻害されるからだとみられている。包括利益にはダーティ・サープラス項目というガラクタ項目が、純利益には特別項目というガラクタ項目が算入されていて、投資意思決定にはほとんど役立たないのである。

 損益計算書のトップに近い利益数値は高い株価反応係数を示しており、特に営業利益は投資意思決定によく使われている。しかし、アメリカには、この営業利益よりもさらに高い株価反応係数を示す利益数値がある。株価に最も大きなインパクトを与えるこの利益数値は、損益計算書の「外側」にあって、GAAP(一般に認められた会計原則)には認められていないものである。この利益数値は「プロフォーマ利益」(pro forma earnings)と呼ばれているが、「街角の利益」(street earnings)というのは「プロフォーマ利益」の別名なのである。街角でよく使われているのは正規の利益数値ではなく「プロフォーマ利益」の方だ、というニュアンスが 込められている。

 3.プロフォーマ利益
 

 プロフォーマ利益は任意開示の利益数値であり、MA&D、社長書簡、プレスリリースなどにおいて、投資者やアナリストを説得するために使われている。IRミーティングにおいて日常的に言及されるのも、このプロフォーマ利益である。プロフォーマ利益の主要なタイプは下の表に示されているが、1980年代にはEBITだけしか使われていなかったのに、1990年代から多様化しはじめ、最近ではEBITDAのほかに、いろいろなその修正版が出回っている。


(1)EBIT(Earnings Before Interest and Tax):利子と税金を除外した分配可能利益

(2)EBITDA(Earnings before Interest, Tax, Depreciation and Amortization):EBITから償却費と消却費を除外した利益

(3)コア利益(Core Earnings):付随的活動項目を除くEBITDA

(4)持続可能利益(Sustainable Earnings):非反復的項目を除くEBITDA

(5)修正プロフォーマ利益(Adjusted Earnings):EBITDAからさらに何かの項目を除外した利益


 これらのプロフォーマ利益は、会社において勝手に定義されたものであり、他の会社の利益数値と比較可能なものではない。GAAPの利益に修正を加えてプロフォーマ利益を導いているが、その修正では費用・損失項目の一部が除外されているから、GAAPの利益に比べて、おしなべて金額が高くなっている。プロフォーマ利益の公表には、公表利益数値を意図的に膨らませ、投資者をミスリードしようとする意図が見え隠れしていて、会計数値をごまかす裁量行動の疑いが掛けられている。このため、2002年にSOX法とSECのRegulation Gにより規制が強化されたが、プロフォーマ利益の公表そのものは禁止されていない。GAAPの利益数値と同等かそれ以上に目立つ会計数値として扱わないという条件と、GAAP利益との金額調整表を添付するという条件が満たされれば、プロフォーマ利益はいまでも公表することが可能である。

 4.むすびに代えて
 

 会計学の実証研究によると、損益計算書(および包括利益計算書)に表示されているどの利益数値よりも高い株価反応係数をもっているのが、プロフォーマ利益である。1992年を境にして、株価へのインパクトは、GAAPの利益数値よりもプロフォーマ利益の方が強くなっており、いまでもこの傾向はつづいている。この現実を背景にして、市場への会計数値の公表にあたっては、会社の経営者はプロフォーマ利益に細心の注意を払っているが、このことの結果として、プロフォーマ利益は最も「汚れた」利益数値になっている。市場では、投資者も経営者も「街角の利益」を中心に、攻防をつづけているからである。


OBENET

代表 岡部 孝好