A Message from Webmaster to New Version(November 17, 1998)

1998年11月版へのメッセージ



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◆おかげさまで、3周年を迎えることができました◆

 さわやかな秋となりましたが、みなさまお元気にてご活躍のことと存じます。この「財務会計ラボ」は、おかげさまで、先月の10月に、開設3周年の記念日を迎えることができました。3年前の1995年秋は、六甲台周辺はまだ瓦礫の山で、夜になっても家々の電灯は消えたままでしたが、いまでは神戸も再生し、この研究室からも、100ドルの夜景を楽しむことができます。出口の見えない不況のさなかではありますが、神戸の街は着実に復興し、新しい発展を模索しつつあるように思えます。震災の年の誕生したこのラボも、新しい時代の建設に向かって、まけずに頑張っていきたいと考えていますので、よろしくご支援をお願いします。

 インターネットの世界は、日進月歩というよりも「秒進分歩」という激しい世の中ですので、この3年間にずいぶんと環境が変化してしまいました。3年前にはまだめずらしかったホームページは、いまでは大学、会社、官庁はいうにおよばず、いろいろな組織に行き渡っていますし、個人でホームページをもつ人も膨大な数にのぼるはずです。インターネットは広く普及し、すでにわたしたちの生活の一部になっています。インターネット技術も安定し、かつてのようにつまらぬトラブルに悩まされることが少なくなっています。

 この環境変化を受けて、「財務会計ラボ」でも自前のWWWサーバを立ち上げ、インターネットの新たな展開に向けてもういちど新たにチャレンジすることにしました。研究室に導入するNEC製のExpress Server に Windows NT Ver 4 を搭載して、その上に新しいWWWサイトを構築する準備を始めています。これから大学は繁忙期に向かいますので、とても早急には動かせそうにありませんが、いずれ近いうちに、新装のWWWサーバからみなさまにお目にかかりたいと考えています。ご期待ください。

◆MBA特別シンポ、IRワークショップへのお誘い◆

 神戸大学経営学研究科では、このたび従来の自己評価システムを拡張して、「外部評価会議」を開催することになっています。この外部評価会議には、外国のビジネススクールから3名の教授をお招きするほか、国内のビジネススクールからも数名の教授に参加をお願いして、神戸大学経営学研究科で実施している社会人MBAプログラムを徹底的に点検、評価することにしています。この外部評価会議に隣接する形で、12月5日(土)には、午後1時より、神戸大学経営学部において社会人MBA教育にかんする特別シンポを開催します。わたしはこのイベントを担当する委員の一人ですが、人集めに泣かされていますので、この場をお借りして、特に大学院教育関係者にご案内申し上げたいと思います。会費が無料であるうえに、ご希望の方には出張旅費を支払わせていだだく(振り込みの清算払い)ことになっています。  つづく12月12日(土)には、「ビジネスインサイト」主催により、インベスターズ・リレーション(IR)をメインテーマにするワークショップが、同じ場所、同じ時間で開催されます。大不況のさなかにありますが、いまこそIR活動が真にその力量を発揮するときだといえますので、ディスクロージャー問題をも絡めて、これからのIRのあり方を熱く論じてみたいと思います。企画、司会はわたし岡部が担当しますが、キーノートは伊藤邦雄教授(一橋大学)に提示していたくことになっています。パネリストとして、IR協議会から渡邉氏、川崎重工業から横山氏、三和総研から松山氏、日本ユニシスから藤田氏をお迎えし、徹底的に議論する手はずになっておりますので、ぜひともご参加いただきたいと思います。

◆PDFファイルによるインターネット出版の動き◆

 インターネット上において学術論文を配布するシステムがかねてより話題になっていましたが、Adobe System社が開発したPDF(portable document format)というファイル形式が普及してきたために、このPDF形式によって、論文頒布をジカに行う動きが世界中に拡がってきています。その現れの1つが、Journal of Accounting and Economicsを発刊しているElsevier Science社の事業展開であり、日本国内のミラーサイトからも同紙に掲載された論文をインターネットを通じて配布する事業(有料)を開始したもようです。この電子出版ビジネスは検索サービス、ペーパ本体の提供を含むかなり大掛かりなシステムであり、これからの学術雑誌発刊のあり方を見通すうえで、重要な手がかりを提供するものと思えます。 PDFファイルはパソコンの機種を問わず、OSの違いを問わず、またワープロソフトの違いを問わず、あらゆる状況でブラウザーのうえにドキュメントを展開できます。また印刷が高品質であるのも重要な特徴で、パソコンに取り込んだドキュメントをプリンターに回せば、雑誌に載せられている本物の論文と同レベルのプリントアウトになります。ファイルの中を検索、修正できるのも大きな特長であり、この点が学術論文のデータベースに適合しているといわれています。これらPDFファイルの特徴については、いくつかのPDF関連サイトがあり、詳しい説明が行われています。

 PDFファイルをパソコン上に展開するには、Adobe System 社製のソフト acrobat.reader ver. 3.0jを受け手側のパソコンにインストールしておかなければならないことになっています。この展開ソフトは無料で提供されますので、まだ手持ちでない方は、パソコン雑誌付録のCD-ROMを使うか、Adobe System社のサイトからダウンロードするかによって、インストールを済ませておく必要があります。

◆インターネット・ブックストアの拡がり◆

 インターネットを通じた書籍の通信販売がいよいよ勢いを強めて、世界的規模で拡がってきています。宅配便サービスとの連携によって、配達、および集金と一体化されてきたために、読者側の利便性は格段に向上してきています。いまでは、外国の本や雑誌でも、パソコンを通じて手軽に取り寄せることができます。

 秋といえば読書のシーズンでもありますので、いくつかのオンライン・ブックストアをご紹介いたします。まずはAMAZON(Japan)ですが、この巨大書店はUSA、Washington州に本拠を構える世界最大のブックストアとして広く知られています。最近では日本の読者にも目を向け、日本語のサイトを用意して、通販も行っているようです。また、アメリカの雑誌をインターネットによって通信販売するマガジン専門サイトとしては、マガジン・インターナショナルがあります。本だけでなく、マガジンもまた、インターネットからの発注、宅配便による配達というスタイルで、直接に購入することができるようになっています。

 国内では書籍取次ぎ大手のトーハンが、トーハン本の探検隊を通じて、インターネット通信販売を展開しはじめました。インターネット受発注のほかに検索サービスを提供しているといわれています。電子書店パピルスというのは、オンラインで書籍を販売している日本のサイトですが、PDFファイルによって、文献のダウンロード・サービスも提供しているようです。また、インターネットへの進出をいちはやく果たしたTRC図書館流通センターでは、「一太郎」のJustnetが開くE-mallに出店し、オンラインショッピングを始めています。日本の洋書取次店であるスカイソフト洋書ショップも、インターネットを通じて洋書の通信販売事業を展開しており、宅配便サービスを受けることができます。

◆「益だし」のツケ◆

 深刻な不況が長引き、この9月中間期は赤字決算のオンパレードという様相になってしまいました。赤字幅もとほうもなく拡大し、いまや100億や200億の赤字では、だれも驚かなくなってきています。

 バブルがはじけて10年近くになりますが、その間多くの会社が「益だし」で苦境を凌いできました。昔から持ち続けてきた不動産、投資有価証券などを市場に売却し、簿外に蓄積されていた「含み益」を表に出してきたのです。取得原価が低い不動産とか、投資有価証券を市場に売却すると多額の売却益が出ますが、これは特別利益として純利益の計算に算入されますので、益だしをすれば、それだけ純利益が増え(赤字なら赤字幅が縮小し)、その場を凌ぐことができます。 現に使用中の不動産を売却すれば、事業に支障がでます。子会社株式など、投資有価証券を売却すれば、子会社との縁が切れてしまいます。したがって、益だしにあたっては、できるだけ操業に支障をきたさない不動産(たとえば従業員厚生施設やグランド)を売却するとか、重要性の低い子会社を売却する(子会社を売る場合にはその株式を売却することになります)といった方法を選びます。しかし、こうした方法だけでは、必要な売却益が確保できないことがあります。この場合に使われる戦略の1つが「バイバック」(buy back)です。

 バイバックというのは、不動産や投資有価証券をいったん市場に売却し、決算期をすぎてから再び同じ資産を買い戻すことを指します。不動産や投資有価証券を売却すれば、その時に売却益が実現し、この売却益が純利益を押し上げます。これで決算を乗り切ると、益だしの目的は達成されたわけですので、翌期になると同じ資産を、ほぼ同じ価格で買い戻し、処分した資産を元に戻します。これがバイバックで、状況は益だし前に復元されます。

 この作戦による場合には、まず帳簿価格の安い資産を売却して、益だしを行います。つぎに同じ資産をバイバックしますと、資産は元に戻りますが、バイバックした資産の帳簿価額はバイバックしたときの高い金額に変わっています。古い(安い)帳簿価格と新しい(高い)帳簿価額の差額が売却益となったわけですから、バイバックによって益だしを行いますと、売却益にちょうど等しい金額だけ、資産価額がインフレートします。バイバックによる益だしは、資産価額を時価に評価替えするのとまったく同じことなのです。

 さて、資産の時価は静止していませんから、益だしを行ったあとも、いつも変化しています。その時価が帳簿価額に比べて大幅に低くなれば、差額を評価損として計上するというのが会計のルール(低価法)ですから、期末の時価が大きく下がれば多額の評価損がでることになります。 もし、過去にバイバックによる益だしを行っていなければ、資産の帳簿価額は古く、また低いままになっています。この状況では、いま期末の時価が下がっても、まだ帳簿価額の方がなお低いということになって、評価損がでないことになります。仮に評価損がでても、その金額はわずかですみます。しかし、バイバックによって益だしを行った会社では、帳簿価額が嵩上げされており、不況が長引けば長引くほど、この嵩上げされた帳簿価額と時価とを比較すると、時価の方が大幅に低いということなりがちです。このため、かつてバイバックによって益だしを行った会社においては、こんどは巨額の評価損に四苦八苦することになります。益だしのツケが回ってきたのです。

 1998年9月中間決算はどこもここも赤字という惨状です。しかし、よくみてみると、その中のいくつかの会社は、益だしのツケが回ってきたために、いっそう状況が深刻になってきています。評価損が膨らんで、それが赤字幅をさらに大きくしているのです。日産自動車がその例だといえます。

◆融資の新スタイル◆

 銀行の苦戦が続いているが、わが国にも、新しいスタイルの融資が生まれていることが注目されます。コミットメントラインの設定契約とプロジェクト・ファイナンスはこうした新しい動きの1つといえます。

 コミットメントラインというのは、銀行が貸出先企業に対して、「最大融資枠」を設定し、この枠の範囲内であれば、貸出先企業にいつでも融資するとする契約です。貸出先企業からすれば、実際には融資を受けていないとしても、この枠の範囲内でいつでも融資を受けられますので、この資金調達余力を背景に、余裕をもって資金管理にあたることができます。また銀行も融資枠そのものをサービスとして販売し、手数料を稼ぐことができます。

 資金繰りにおける重要なポイントは不確実性であり、思わぬ事態が生じたときに、資金ショートを引き起こさないように万全の準備をしておく必要があります。そのためには、いつも余分の資金を保有しなければなりませんので、大きなロスが発生しますし、いまのような金詰まり時代には資金繰りがたいへんです。しかし、コミットメントラインを契約しますと、設定枠の範囲までは、銀行の方で不確実性に対処してくれますので、資金の運用効率が上がり、資金繰りが楽になります。 他方、プロジェクト・ファイナンスというのは、複数の企業が行うプロジェクトを単位として融資を行う方式です。従来の考え方では、ファイナンスは借り手企業に向けて行われるもので、その企業が実施するプロジェクトではありませんでした。ところが、プロジェクト・ファイナンスでは、企業という単位に向けた融資に代えて、企業(複数の企業)が行うプロジェクトを単位として融資が行われます。

 これら2つの新しいスタイルの融資がどのように運用されるのかには、まだ未知の点が多数あります。しかし、わが国の銀行がこれもでの成り行きを捨て、新しい金融方式を模索していることはまちがいのないことのようです。

◆次回の更新◆

 このラボは隔月更新の方針ですが、最近は雑用にかまけ、更新が遅れ気味で、みなさまにご迷惑をお掛けしています。これまでの遅れを取り戻すためにも、冬休み中にはぜひとも次の更新をいたしたいと考えていますので、よろしくお願いします。

 これからは北風の季節かと思いますが、お風邪など召しませぬよう、お元気にご活躍ください。


  1998年11月15日

             神戸大学財務会計ラボ

                           岡部 孝好