A Message from Webmaster to January Version,1998

1998年01月版へのメッセージ



明けまして、おめでとうございます。本年も、 どうぞよろしくお願いいたします。

 いよいよ1998年の春を迎えましたので、21世紀まで、本年と来年の2年しかなく なったことになります。ことしも多難な一年になりそうですが、「愉快な会計学」を 目指して、元気よく研究と教育に邁進したいと思います。またインターネットのうえ でも、楽しく発信を続けていきたいと考えていますので、よろしくご支援をお願しま す。


◆画面を部分的に刷新◆

 お正月を迎えましたので、ご覧のように、画面を少し 改め、カラフルにしてみました。また、音をいれていますのが、お聞き取れるでし ょうか。しかし、見出しの画像ファイルを壁紙を貼り替えたりしただけで、中身は まったく変わっていません。ファイルがすでに2MBを超えているみたいですので、多 少削除したいのですが、ファイルの整理にまで手が回らず、今回はそのままにして あります。


◆景品付き社債◆

 社債の標準的なタイプは普通社債(straight bond)です が、これは小口に分割された借用証書でしかなく、味もそっけもないものです。元本 が保証されていて、利子が付きますが、確定利付証券ですので、投資の妙味に乏しい という弱みがあります。そこで、株式への転換請求権がついた 転換社債 (保有者の選択により社債を株式と交換できるもの)とか、 新株引受権がついたワラント債 (社債を保有したまま所定の価格で株式を購入できるもの)が考案され、 いまではきわめて広く利用される債券になっています。普通社債に転換請求権とか 新株引受権とかいった「おまけ」を付加し、この「おまけ」によって、社債の投資 魅力を高めているのです。これらの「おまけ」は 「甘味剤」(sweeter)と呼ばれていますが、 この甘味剤が社債への投資を誘因する重要な働きをしています。

 わが国では、昨年あたりから 「景品付き社債」が発行されるようになりましたが、 これは新しいタイプの甘味剤を普通社債に組み合わせたものです。ここに「景品」と いのは、発行会社の製品の引換券(映画の入場券、電車の乗車券、ホテルの宿泊券、 食事券など)を指すことが多いようですから、従来の株主優待制度を社債に応用した ものにすぎないともいえます。しかし、現実に甘味剤の働きをしていて、社債の引受 けを促しているとすれば、やはり新種の社債として注目しないわけにはいきません。 投資者サービスという点からも、興味深い試みといえそうです。


◆自社株買いのチャンス◆

 昨年も株価は下がりつづけ、大納会ではダウ平均株価は15、000円の水準で引けま した。年が明けても、この低水準をウロウロしています。このように株価が低迷する と、暗いウワサばかり飛び交いますが、自社株を買い取るという視点からすれば、何 十年に一回のビッグチャンスだといえそうです。現に、かなりの会社が12月から1月 にかけて、自社株買い取り戦略を展開しています。

 わが国では、自社株保有は原則禁止のままですが、商 法の改正により、「利益による消却」を目的にする 場合(および役員・従業員にストック・オプションとして提供する場 合)には、例外的に許容されることになりました。ここに 「利益による消却」というのは、配当可能利益があれば、その範囲内で自社株を購入 し、その株式を消滅できるというものです。自社株をマーケットから吸い上げます と、市場に出回る株式数がそれだけ減少しますので、市場に残って いる方の株式の値打ちが高くなる勘定になります。株数が減少すると、1株あたり の利益(EPS)、1株あたりの簿価(BPS)は増加します。もし株価収益率(PER)が不変だ とすれば、これは株価を押し上げることを意味しています。

 株価が高い水準にある時に株式を時価発行しておき、株価が低い水準に下がった 時に自社株を購入して消却しますと、その差額が発行会社の「儲け」といえそうで す(もちろん、会計上の処理では利益にはなりません)。株価の低い現時点に自社 株を買い入れて消却し、将来株価が回復した時に、新株を時価発行するのにも、同 様の効果が期待できます。いずれにしても、株価低迷期は自社株買いのチャンスで す。


◆企業会計審議会が議事録をホームページに◆

 国際会計基準の基準設定機関である国際会 計基準委員会(International Accounting Standards Committee)が昨年の春より ホームページを開設している点は、前回お伝えしましたが、わが国でも大蔵省のホー ムページが企業会計審議会の議 事録とプレス発表を情報発信しています。このページの議事録というのは、いたって 簡単な内容ですが、いつ、何が審議会で検討されたのか、概要を知るうえで重要な 手がかりを与えてくれます。


◆ごた混ぜの銀行会計◆

 わが国の銀行では、財務内容が急速に悪化してきた ために、国際決済銀行(BIS)の自己資本比率規制が、真綿で首を絞めるように、銀行 の行動を縛りはじめ、あちこちで悲鳴があがってきています。規制のモノ サシになっているのは「自己資本」ですが、 これがやせ細ってしまっているために、資金を貸そうにも、貸せない状況 になっているのです。BIS規制は一定以上の自己資本比率の保持を強制していますが、 下手に貸出すとさらにこの比率が下がりますので、銀行では資金を手元に溜め込もう としています。借り手は、これを「貸し渋り」と非難していますが、実際問題とし てこの自己資本比率が下がってきたために、クレディット・クランチが起きて いるのは間違いないようです。

 このBIS規制は、「自己資本」という会計数値にもとづ く数値規制ですから、会計数値を操作することができれば、この規制の拘束力を緩め ることができます。「数値イジリ」によって会計数値を変えれば、BIS規制の縛りを 逃れることがでるのです。しかし、この「数値イジリ」は、会計数値という「見かけ 」を変えるだけのことで、銀行の実体、つまり資産や負債の実状を変えるものではあ りません。会計数値を変えてうわべを装っても、銀行の苦しい経営状況は元のままで す。それにもかかわらず、この「数値イジリ」が政府によって推進されようとしてい ます。

 その第一弾が、低価法の棚上げ です。流動資産の時価が原価を下回った時には、時価に評価減する (評価損を計上する)というのが低価法で、この健全な会計 ルールは「一般に認められた会計原則(GAAP)」として世界中広く採用されていますし 、またわが国でも「公正ナル会計慣行」として長らく認められてきたものです。それ にもかかわらず、わが国の銀行において、この低価法の適用を一時的に棚上げし、 原価法を適用するというのが今回の政府の新方針の ようです(1991年ごろにも、このウルトラ策が採用されたような記憶 があります)。原価法によれば、たしかに評価損は表面に現れません (したがって、自己資本比率の悪化が避けられます)が、 含み損があるという事実に変わりはありませんから、低価法の棚上げは含み損を覆い 隠すことでしかありません。しかも、世界の動向は、流動的な資産の評価については マーク・ツー・マーケット(mark-to-market)、 つまり時価基準によるという方向にすすんでいますから、今回の新方針はこの世界的 な動向にも逆向していることになります。

 銀行に関連する第二の重要な動きは、与党が提案してい る「土地再評価法」です。銀行は全国の一等地に土 地をたくさんもっていますが、それは会計帳簿には、何十年も前に調達した時の低い 取得原価で計上されています。バブルの時に比べれば地価はかなり下がったとはいえ、 それでも取得原価に比較しますと、現在の土地の時価はとほうもなく高く、差額が 「含み益」になっています(4兆とも6兆ともいわれています)。「土地再評価法」は、土地の評価に時価基準を適用する ことによって、この「含み益」を一挙に表面にだすというものです。たしかに土地を 再評価すれば、「自己資本が充実する」ことになりますが、それは「数値イジリ」に よるみかけだけの充実で、現実の経営状況が改善されているわけではありません。 BIS規制を逃れるという点ではメリットがありますが、状況は元のままで、変わって いないのです。

 これらの新しい動きについて、3つのコメントを付け加 えたいと思います。

(1) 低価法を棚上げするというのは、部分的な時価基準から原価法への転換を意味 しますが、他方の土地の再評価は原価基準を捨てて、時価基準を適用することになり ます。2つは方向が逆で、ツジツマがあっていませんから、たんなるご都合主義とい われてもしかたがないと思われます。現に、デリバティブなど、他の会計処理も考え 合わせてみますと、最近の銀行の会計は「ごた混ぜ」になっていて、専門家にも解釈 不能な数値になってきています。

(2) 会計ルールは社会のインフラで、市場競争の枠組みを提供しています。市場の 取引主体はまず会計ルールの枠組みを受け入れ、それを前提にしたうえで、競争を繰 り広げているのです。最初にルールありき、です。それなのに、競争上不利だからとい って、途中になってから、突如として会計ルールを変更するというのは、どう好意的 に解釈しても、フェアなこととはいえません。野球にたとえれば、3塁にランナーが 出てから、3塁ベースをホームベース寄りに動かすようなものです。

(3) 日本においては、会計ルールのルール・メーカーはいったい誰なのでしょう か。企業会計審議会がいちおうこの役割を担うことになっていますが、公認会計士協 会も、次々に新会計ルールを決めているみたいです (ワラント債の会計のように、その中の1研究会が会計ルールまがいの新ルールを出 した例さえあります)し、政府の各省庁も、それぞれ所管の範囲内で、会計ル ールを決めているようです。わが国の基本的な会計ルールは商法に決められているは ずですが、「土地再評価法」の場合、それを凌ぐ特別法が国会で議決されることにな るのではないかと思われます。また、法人税法(および通達)は、商法にも決められ ていない細部をどしどし定めて、事実上「商法の施行細則」の機能を果たしているよ うにみえます。これでは、とても筋の通った会計ルールなぞ、わが国にはできあがり そうにありません。


◆価格破壊と後決め◆

 最近ではあちこちにデフレ現象が発生し、価格破壊が拡 がってきています。ごく身近なところでも値下げが目立ち、ガソリンなど80円台で買 えるまでに下がっています。企業と企業とが取引をする素材市場でも事情は同じらし く、物価指標はどれも大幅に下落しているようです。この弱い市場動向を背景に、い くつかの産業において、またもや、「後決め」とい う日本の悪習が復活してきている、と報道されています (日経1998.01.17朝)。後決めは、景気後退期に現れてくる現象です。

 塩化ビニール樹脂の需要家は、ビニール樹脂を仕入れて ビニール管を製造しますが、住宅の新規建築がペースダウンしているために、製品の ビニール管が売れません。そこで、原料のサプライヤーに大幅な値下げを求めます。 しかし、サプライヤーはこの値下げを嫌って、なかなか譲歩しませんから、価格交渉 が長引き、いつまでも決着がつきません。

 価格交渉が未決着でも工場は稼働していますから、原料 の供給が必要です。そこで、とりあえず仮の単価を決めて納品し、価格交渉の合意が 成り立ってから、後で精算することにします。この便法が「後決め」ですが、業界に よっては、「事後調整」ともいわれています。

 会計にとって「売上高」、「仕入高」というのは一番重 要な数値ですが、この数値がアヤフヤでは、会計帳簿に記入のしようがありません。 しかし、記入しないことには整理がつきませんので、仮単価にもとづいて仮の伝票を 切り、とりあえず会計記録を残します(そして、小切手や手形を振り 出して、暫定的に決済します)。このため、後決め方式によりますと、サプ ライヤーの売上高も需要家の仕入高も仮の数値になってしまいます。最も大切な会計 数値が暫定的な、見積額となって、信頼できなくなるのです。

 期末までに価格交渉が決着すれば、期中には仮の会計数 値が使われるとしても、期末時点の「売上高」、「仕入高」は確定数値に変わってい るといえます。この場合でも、期中の会計記入と取引伝票(納品書など)を、期首に まで遡って、全部書き直すのは、テマ、ヒマがかかるという点だけではなく、会計手 続きの点からしても問題含みですが、この書き直しが完了しますと、ともかく期末に は、会計数値は正常な「硬い金額」に復元されることになります。ところが、悪くす ると、期末までに価格交渉がまとまらないことがありますし、1980年代にはこの最悪 のケースが頻発したのです。

 期末になっても価格交渉が決着していないとすれば、「 売上高」も「仕入高」も仮の会計数値です。この仮の会計数値にもとづいて決算を行 い、この仮の会計数値にもとづいて監査を行い、仮の数値にもとづいた会計報告書と 監査報告書を外部に公表します。しかし、この場合の決算、この場合の会計報告とか 監査報告というのはいったい何なのでしょうか。すべて「仮」のもので、当てにはな らないのではないのでしょうか。これこそは日本独特の会計ですが、この「日本の仮 決算」方式は、どこからみても、世界に通用する会計実務とはいえません。グローバ ル・スタンダードから、あまりにもかけ離れています

 日本の会計実務には見直すべきところが多数あります。 しかし、その多くは日本的取引慣行に根ざしていて、 会計だけの問題ではないのです。ここで紹介した後決めがその典型的な例になります が、日本独特の「仮決算方式」もこの後決めという日本的取引慣行とセットになって いますから、まず後決めという悪習を断ち切らないことには、グローバル・スタンダ ードが達成できないのです。


◆インターネットとデータベースの統合◆

 正月休みを利用して、遊び半分に、インターネットの新しい技術を少し勉強して みましたが、目を見張った新技術の1つにSQL (structured query language)があります。データベースの管理とインターネットに おける情報交換とをシームレスに融合す るもので、2―3年前にはとても考えられなかった柔軟さをもつことがわかりました 。この革新的技術をサーバーに導入しますと、インターネット・ユーザとの対話がイ ンタラクティブになりますので、このホームページも格段に高級化することになりま す。こころを弾ませてパイロットプログラムをランしてみましたが、おおむねうまく いっているものの、このバージョンアップにはついに間に合いませんでした。まだ検 討すべき技術的問題点がいくつか残されています。

 データベースの更新は「奴隷の仕事」といわれますから、このラボにおいてデー タベースを抱えると、その維持が悩みの種になるおそれがあります。しかし、いず れは手を付けるべきことですので、データベースの更新をいかに省力化するか(つ まり手抜きをするか)、その手だてをいろいろ思案しているところです。これから は試験監督など、「内職」の機会が増えますので、その折りにもっと具体策を練っ て、いずれはSQLをかっこよく組み込みたいと考えています。ご期待ください。


◆次回の更新◆

 今年は暖冬のようですが、冬はこれからが本番で、風邪が流行しそうです。ちょ うど繁忙期を迎えることにもなりますので、ますますご自愛のうえ、ご健闘くださ い。次回のバーションアップは、3月上旬を予定しています。

      1998.01.18

      岡部 孝好@神戸大学経営学部(okabe@kobe-u.ac.jp)