A Message from Webmaster

 to New Version(November 23, 2007)




2007年11月版へのメッセージ

[暫定版](写真の更新があります)

OBE Accounting Research Lab



Back Numbers [1995年10月 ラボ開設のご挨拶][ Webmasterからのメッセージのバックナンバー]


◆これからが秋の本番か◆

 日本海側の京都では冠雪があったというのに、隣家の垣 根ではいまだに朝顔が、数ブロック先の畑ではひまわりが咲いています。京都の観光名所も、もみじはもっと先 になりそうで、今週も通り抜けた御所の森でも、もみじの枝先はまだ青々と繁っている状況でした。この分だと、 京都市内の他の観光地に出かけたところで、とても紅葉の写真はものにできそうもありませんので、カメラを肩 に観光スポットを歩くのは先延ばしにすることにしました。このページの写真の張り替えも、追い追いというこ とにさせていただきたいと思っています(「暫定版」というのはこの意味です)。

 10月更新の予定が1月遅れてしまいましたが、皆さまご機嫌い かがでしょうか。同志社大学の西門には巨大なクリスマス・ツリーの準備が整っていますので、京都はもう暮れ の雰囲気になってきています(上のもみじは京都市の相国寺境内のもの。2007年11月24日撮影)

◆前払証票の会計処理基準の変更◆

 お世話になった方にお歳暮を贈る場合に、デパートで商品券を購 入し、この商品券を先方にお届けすることがあります。商品券は金券と同じですので、頂いた方ではデパート内の いかなる商品にも換えることができますが、ビール券、お仕立券となると、引き換える商品が限定されてきて、何で もというわけにはゆきません。しかし、これらの「証票」の購入は代金先払い、商品後渡しという点で共通していま すので、会計学では「前払証票」という名称で、一括して取り扱われています。「前払い」というのはお客さまの立 場からみた表現で、最近の用語でいう「プリペイドカード」と同じネーミングですが、デパートなど発行側からみる と、「前受け」になり、負債として扱われます(下のもみじは京都市の相国寺境内、承天閣前庭のもの。 2007年11月24日撮影)

 売り手からすると、前払証票は代金を先に頂いていて、商品はま だ渡していません。売上高を認識するのは商品の引渡時点とするのが会計学の鉄則ですから、この鉄則によるかぎり、 前払証票の発行時点では売上高は計上できないことになります。代金を受け取っていても、将来に商品を引き 渡す義務が発生しているわけですから、この義務を負債に計上して、将来の商品引渡しに備えなければならないので す。実際の会計処理では種々の負債の名称が使われている可能性がありますが、基本的には「前受金」の仲間と考え、負 債として貸借対照表の右側に計上されます。

 この前払証票の場合には、その持ち手と購入者が別人となるため か、商品の引き取りを忘れるケースがしばしばでてきます。代金の支払いを終えているのに、いつまで待っても、商 品の引渡しが行われないのです。このケースでは、前払証票を発行した売り手側が「丸儲け」になってしまいます。 問題は、この「丸儲け」のケースでも、商品の引渡しが済んでいませんので、建前からすれば、売上高を計上できな いということです。前払証票の有効期限が尽きていないかぎり、永久に負債に計上しつづけることが必要になるので す。この気の長いやり方が、原則的な会計処理法といえ、負債が存在するのに抹消するのは不健全な処理ということ になります。

 前払証票が商品と交換されない場合にどうするか。この問題に対 しては、いくつかの便法が用意されていて、実務では原則的な処理が行われてこなかったのが実情です。まず第1の 便法は、商品との交換があろうがなかろうが、ともかく商品券が「売れた」ということ、それに代金がす でに回収されていることに注目して、前払証票の販売時点に売上高を計上してしまう乱暴な方法です。前払証票を販 売した期間中に商品との交換が行われなかった場合には、費用(売上原価)の負担がまったくなくなりますし、翌期 以降に商品との交換がづれこんだ場合には、費用の負担が後日に廻り込みます。しかし、こうした細部をすべて無視 してしまうと、前払証票の発行時に負債を認識する必要はなくなり、いたって簡単な処理になります (上と下のもみじは京都市の相国寺境内のもの。2007年11月24日撮影)

 第2の簡便な処理法ではもっと厳格に考え、前払証票の発行時には前 受金を負債として認識し、その後商品と交換されるごとに、この前受金を取り崩し、収益を計上します。ただ、商品券 の有効期限は3年だと仮定して、3年が経過してもまだ引き換えられない商品券が残っている場合には「没収扱い」と し、3年目にその前受金をすべてその期の収益に振り替えてしまうのです。

 会計学からすると、第1の簡便法も第2法の簡便法も、正確な会計 処理とはいえないものです。しかし、日本の税務会計においては、第1法を基本的は方法とし、第2法を補助的な方 法(税務署長の承認を条件に容認)してきました(基本通達2-1-33)。

 ところが、このほど公認会計士協会から「租税特別措置法上の準備 金及び特別法上の引当金又は準備金に関する監査上の取扱い」(監査第一委員会報告第42号、平成19年4月13日)とい う文書が公表され、第2の簡便法によって、3年で没収処理している場合であっても、なおも商品交換請求がでてくる 可能性が残っている場合には、その可能性を見積り、引当金を設定することが必要ということになりました。第2の簡 便法による場合にも引当処理が必要ということであれば、第1の簡便法による場合にはなおさら必要ということになり ますので、これまで第1の簡便法によっていて、前受金としての処理さえしていない会社では、たいへんな影響を受 けることになります。引当金の計上にともない、それに見合う多額の特別損失(引当金繰入損)が発生するのです。適 用年度は平成19年4月以降の会計年度からとされており、セブン&アイホールディングではこの中間期に70億円の特別 損失の計上が必要になると、報道されています。

◆再設計が必要な排出権取引制度◆

 京都議定書においては1990年を基準年にして、CO2排出量の上限を定め ていますが、日本の場合にはその上限値は1990年実績のマイナス6%の水準とされています。第1約束期間は2008-2012年 ですので、来年から5年間の平均で、1990年のマイナス6%の水準にまで、CO2の排出量を切り下げることを迫られているの です。しかし、この目標は達成不能という見通しになってきています。

 1973年のオイルショック以降、日本企業では省エネを徹底的にすすめ、 技術革新に次ぐ技術革新を通じて、エネルギーの消費量を徹底的に切り詰めてきました。これは、1990年当時において日 本企業はもはやCO2を削減する余力をなくしており、1990年のマイナス6%の水準にまで落すのは至難だということを意味 しています。新技術の導入によったり、エネルギーの転換によって、さらにCO2の排出量を切り落とし、京都議定書の定め る国別達成目標をクリアするのは、1990年に時代を戻しても、容易なことではなかったのです。1990年からすでに17年が 経過していますが、不況、不況といいながらも、その間に日本経済は成長し、エネルギーの消費量は大幅に増加しています。 過去17年間におけるこのエネルギー消費量の増加にともないCO2の排出量も当然に増加していますが、過去17年間に増加 したこの追加のCO2排出量は、すべてが数値目標の超過分に相当し、第1約束期間における切下げの対象に入ってしまい ます。追加のCO2の全部を排出抑制するか、それとも排出権クレジットでカバーしなければならくなりますが、これはと ても無理なことです。

 京都議定書には京都メカニズム(Kyoto Mechanism)が取り決められ ており、国と国、企業と企業の間で、排出権を売買する排出権取引(emissions trading)が認められています。この排出権 取引を支える仕組みの1つがキャップ&トレード(cap and trade)であり、まず国内の各会社にCO2の最 大排出量をキャップとして割り当て、実績排出量がキャップを超えたとき、超過量におうじて罰金を科す制度が 設けられます。実績排出量がキャップに達しなかった会社は、未達分(余裕分)を他社に売却できますが、キャップを超 過した会社は、他社の余裕分を排出権として購入し、これによって、罰金を回避することになります。

 キャップ&トレード制度の出発点は、日本のすべての企業にキャッ プを割り当てることです。それなのに、このキャップの割当てができていないのです。仮にいま、1990年の実績排出量 を既得権益とみなすとして、各企業には1990年の実績排出量まで、無料でCO2を排出してもよいと取り決めます。そして、 この1990年の実績排出量を上回った排出量には罰金を科すとする一方で、この上限を下回った企業には、その余裕分を 他企業に販売する権利を与えます。この単純なキャップ&トレードによっても、日本において完全な排出権取引市場が 成り立ちます。

 しかし、1990年時点の実績排出量を既得権益とみなして、これをキャ ップとすることには重大な問題があります。まず第1に、1990年以前において省エネをまったく行わず、CO2を垂れ流し てきた企業は大きな排出権を取得するのに、乾いた雑巾を絞るようにして省エネを続けてきた企業では、小さな排出 権しか取得できないのです。第2に、1990年以降に創業した企業の問題があります。1990年に存在しなかった企業には 実績排出量がありませんので、キャップはゼロで、すべてのCO2排出量がキャップ超過分になってしまいます。第3は 第2の問題点と重なる問題点ですが、1990年以降における各社の事情の変化です。1990年以降において衰退した 企業では大きな排出権が既得権として残されますが、1990以降に急成長した企業では、排出権が足らず、外部 から購入しなければならない状態におかれます

 キャップを割り当てないことには、排出権取引市場は成り立たないのに、 そのキャップを決める手立てがない。これが排出権取引制度の現状です。とりあえずどこかの適当な水準にキャップを置 いてみればよいようにみえますが、キャップを定めることはCO2排出量の上限を定めることであり、CO2排出量の上限を定 めることはエネルギー使用量の上限を定めるのと同じ意味をもちます。日本の経済団体は、この点から、キャップを決め ることは経済統制そのもであり、企業行動の自由を縛るもとだと、強烈に反対しています。政府も、この反対を受けて、 ヨレヨレの姿勢になってきています。

 京都議定書では、大量のCO2排出国を吐き出している中国、インドな どを発展途上国として扱い、CO2の排出量を数値目標によって縛っていません。アメリカとオーストラリアは、中国、イ ンドなどの大量の排出国を拘束しない条約は競争上不平等だとして、すでに議定書から脱退しています。EUはCO2 の排出規制にいたって熱心で、第1約束期間が終わったあとでは、数値目標をさらに引き上げようとしています。こうし た国際情勢に挟まれて、日本のCO2排出規制はますます混迷を深めてきています。スタートとなるキャップの割当方法から 再検討し、排出権取引制度を再設計する必要に迫られているのです。

◆繰延税金資産が弾けるタイミング◆

 会社の将来が明るい場合には、純利益という 会計数値が将来時点においても黒字になるものと予測できます。将来の純利益が黒字であれば、その時には納税の義務を 免れませんので、将来の税金はプラスになると予測できます。この明るい見通しのもとで、何らかの方法によって 将来の税金を当期に繰り上げて納付するとすれば、税金の前払いとなって、当期の税金費用が増加し、将来の税金費用 が軽減されます。この場合においては、 会計では複数の期間に渡る税効果(tax effect)を認識して、「繰延税金資産」を貸借対照表に計上する決まりになってい ます。この繰延税金資産というのは、将来の税金を当期が肩代わりしたものであり、将来のキャッシュフローを節約する 効果をもっています。

 秋の天気のように、ビジネスの景況はくるくると変わりますので、 将来の見通しは安定していません。明るい見通しであった会社の将来に翳りが生まれ、将来の純利益が赤字になるおそ れがでてきたとします。将来の利益数値がマイナスになるのであれば、その将来時点では税金を納付する義務がなくな ります。納税の義務が発生するのは黒字の会社だけで、赤字の会社には納税の義務はないのです。将来に納税の義務が なくなる見通しに変わったしますと、当期の貸借対照表に載っている繰延税金資産はその存立の基盤が揺るぎます。将 来の税金費用を肩代わりして支払ったという理由で資産に計上されているのに、将来の税金費用そのものが蒸発してし まうと、繰延税金資産は腰砕けになってしまいます。そこで、将来の純利益が赤字になる見通しに変わった場合には、 繰延税金資産を取り崩して、ゴミ箱に捨てます。やや専門的にいい換えると、回収可能性のテストによって繰延税金資 産をチェックして、もし回収可能でないと判断される場合には、繰延税金資産を消却して、特別損失を認識します。

 会社の将来利益についての予想が黒字から赤字に変化するというは 、それだけでも暗い話で、市場では「わるいニュース」と評価されます。その「わるいニュース」と同時に、会社の 現在の業績が大幅な赤字になったというニュースが市場に出廻ると、市場のショックは増幅され、株価は大幅に下げま す。しかし、繰延税金資産が関わっている場合には、これら2つの「わるいニュース」は絡んでいて、別個のことでは ないのです。将来利益の予想が黒字から赤字に変化し、この予想の変化により繰越税金資産が消却され、繰延税金資産 の消却により、当期の純利益が大幅な赤字に変わってきたのです。

 アメリカの自動車メーカーGMは2007年の第2四半期に3,900億ドル(4兆 5000億円)もの巨額の損失になったと報道され(2007.11.08)、市場では大騒ぎになりましが、その犯人は繰延税金資 産です。GMの将来の利益見通しが翳って、繰延税金資産を一挙に取り崩しただけのことで、もともと繰延税金資産そ のものが怪しい資産であったといえなくもないのです。

 食べ物は「食える」ということが前提で、口に入れて噛めないもの は食べ物ではない、という人がいます。最近の会計学の流行は資産・負債アプローチであり、売買できたり、値段がつくも のでなければ資産でないという見方が拡がってきています。この資産・負債アプローチとともに登場してきたのが繰延税 金資産ですが、これは売買の対象とはなりえない計算擬制上の資産であり、もともと怪しい資産です。この怪しい繰延税 金資産はバブルのように弾けやすい性質をもっていますが、問題は弾けるタイミングです。将来が明るいうちには弾ける ことはありませんが、将来の見通しに翳が差してくると、とたんに弾けるのです。これでは、会社が潰れるのを後押しし ているのと同じ、ということになります。

◆京都の時代祭り◆

 10月22日は時代祭りということで、京都の都心はたいへんな賑わいでした。 わたしもカメラを提げて御所の中の群集の1人になっていたのですが、どこもここも人だかりで、シャッターのチャンス を掴むのが大変なことでした。人垣の前列の人がアタマの上に高くカメラを差し上げるので、それがジャマになって、撮れ ないのです。多数の方が脚立をもっていましたが、なるほどと、納得がいった次第です。

 来年は源氏物語の千年祭とかで、十二単で着飾った一団のお姫さんが 賑々しく歩いておいででした。みんさんは草履履きのようで、ビーチを散歩するようなきびきびした歩き方でしたが、た ぶん時代考証は正確に行われているでしょうから、それでよいのでしょう。千年前のことでも、お姫さまは牛車か籠に乗 って現れるものとばかり、わたしは思っていました。

 1つ気づいたことは日本の武士の武装が意外に変わっていないという 点で、源平時代、戦国時代、江戸時代を通して、鎧兜、刀槍の形状が類似していて、鉄砲伝来の前後を比較してみても、 それほど武器に変化があったようにはみえませんでした。もちろん強度とか、切れ味とか、品質には大幅な進歩があった のでしょうが、見た目の日本の武士は、昔からあのような格好をしていたようです。

◆未稼得利益◆

 会計学では実現原則にしたがって収益(したがって利益)を認識し ていますが、この実現原則は利益の「稼得プロセス」(earning process)ということをを前提にしています。労働の投 下によって生産物を生産していくと、生産におうじて利益が稼得され(earn)ます。この稼得された利益(earned income)が、その後、 その後に販売によって実現されるというわけです。したがって、最初に稼得ありきで、稼得もされていない利益が、後に なって、突如として実現するようなことはありえないという話になります。

 生産にともないどのように利益が稼得されていくのか、その稼得の パターンは視認できることではありません。しかし、一般に最も説得力が強い見方は、生産要素の投入量に比例して、利 益が稼得されているというものです。生産要素の投入量はコストによって測ることができますから、この見方にしたがう と、利益はコストに比例して、順次稼得されていくということになります。

 長期請負工事の会計では実現原則の例外として、工事進行基準が適 用されています。この工事進行基準においては、現実に利益の稼得はコストに比例するという考えが採用されていて、 工事の進捗度(しんちょくど)はコストで測定されます。すでに発生している工事原価と予定総工事原価との比をとっ て、予想工事利益をこの比率によって按分するのです。

 利益の稼得がコストに比例するというこの考え方は、会計学に広く 、また深く浸透していて、たとえば通常とは順序が逆転して、販売の後に製造が行われる場合にも、利益はまだ稼得さ れていない、みなします。プラントメーカーが機械の本体をいったん発注者側に納品し、その後で部品を取り付けるよ うなケースでは、たとえ納品時に代金を全額受け取っていても、製造プロセスが完了していません。製造が未完であれ ば利益は「未稼得」ですし、未稼得の利益が実現することはありえませんから、このケースでは利益の認識は禁止とい うことになります。販売の要件を満たしていない場合は一般に「未実現利益」(unrealized income)といわれますが、 製造が終わっていない場合には、「未実現利益」という代わりに「未稼得利益」(unearned income)というのです。

 しかし、この「未稼得利益」という考え方は、最近になって揺らいで きています。資産・負債アプローチにしたがって前受金を定義する場合に、入金時に利益を認識するという怪しい会計処 理が提案されているからです。資産・負債アプローチによりますと、負債は将来に会社から出て行くキャッシュフローと なります。販売対価の前払いを受けた場合には、このキャッシュフローの入りの見返りに、将来に会社から流出するキャ ッシュフローは販売価額ではなく、製造原価ということになりますから、負債となるのは製造原価に相当する金額であっ て、販売価額ではないことになります。販売対価の前受けにともなって販売価額相当額だけ資産(現金)が増加するの に、負債となるのは製造原価相当額です。製造原価と販売対価の差額に相当する利益が前受金の受領時に認識されること なってしまいます。これは製造前の段階ですから、伝統的な考え方によると、明らかに未稼得利益ということになり、利 益の認識が禁止されるケースです。

 契約の未履行のステップで利益を認識することは、伝統的な会計学の 基本的な考えには沿わないことです。売り手から買い手への財・サービスの引渡しは契約の履行となりますが、実現原則は この契約の履行に注目していて、財・サービスの引渡しがないと、利益の認識を認めてこなかったのです。それなのに、 資産・負債アプローチによるという理由で未稼得利益にまで、利益認識時点を繰り上げるとすれば、これは伝統的な 会計学の考え方と衝突することになります。未稼得利益というのは製造プロセスが完了していないステップの利益で すから、契約が履行される見込みもない段階で、未履行契約の利益を認識することになりかねないのです。これは、 きわめて不健全な会計実務です。

◆おおはやりの循環取引◆

 循環取引というのは架空売上を計上する会計不正の手口。加ト吉 がこの循環取引によって売上高を1,000億余円膨らませたとして強制捜査を受け、世間を沸かせています。2004年の メディア・リンク事件も循環取引によるものでしたから、この手口はおおはやりということになります。

 循環取引は「回れ回れ」、「大回り」など、さまざまな名称が ついていますが、先進国のアメリカでは「周遊旅行」(round trip)という名前で広く知れわたっていま す。周遊旅行のようにぐるぐる回って、必ず元の出発地に戻ってくるのが特徴です。ぐるぐる回るには少なくとも 3ー4社が結託しないと仕組みがなりたたないことになりますが、加ト吉事件では全国の20社以上が関わっていたと いわれていますから、大規模な周遊旅行です。

 循環取引の手口を例示するために、ABCの3社共犯のケースを取り 上げます。主犯のA社はB社とC社に事前に根回しをして、全体の計画を周知徹底しておきます。まずA社はC社を訪れ、 B社から商品Xを購入したら、それに10%のマージンを乗せてA社にもってくれば、A社は必ず買い取ると固く約束しま す。次にA社はB社を訪れ、A社の商品Xを買い取り、そのままC社に転売すれば、C社が10%のマージンを乗せた価格で 必ず買い取る約束になっている、と説明します。これでA⇒B⇒C⇒Aというループができあがりますので、A社はB社に向 けて、たとえば商品Xを1,000万円の販売価格で出荷します。B社は1,000万円で仕入れた商品に10%のマージンを乗せ て、すぐにC社に向けて出荷します。B社では、この取引で売上高が1,100万円増えるだけでなく、100万円の利益が獲 得できます。C社では、B社から商品Xを1,100万円で仕入れていますが、これはA社が1,210万円で買い取ると約束されて いる取引です。そこで、C社では商品Xを1,210万円でA社に向けて出荷しますと、C社の売上高は1,210万円増加し、 純利益も110万円だけ増えます。最後にA社では、B社に出荷した時点で売上高が1,000万円計上されていますが、A社 における商品Xの当初の仕入原価が1,000万円であったとすれば、利益はゼロです(実際には低い価格で仕入れていま すので、利益がでます)。注意を要する点は、A社、B社、C社ともに売上高が増えて、どこも損を出していないという ことです。A社では1,000万円の商品Xを1,210万円で買い戻していますが、これは在庫の評価額が上昇しただけのこと で、損益には影響がないのです。

 売上高は商品が販売された場合にのみ計上されますし、商品が販 売されたかどうかは、実際の荷動きによって判定されます。したがって、循環取引においても、商品XはA⇒B⇒C⇒A というループを「循環」しなければならないことになります。この商品の受け渡しを省略して、伝票だけのやり取り となるとまったくの架空取引となって、お話にならない幼稚な粉飾となります。循環取引であっても、売上高として 正式に認識されるためには、代金の決済も必要ですから、それぞれの間で、代金の支払いが行われていなければなり ません。新聞報道によると、加ト吉事件では決済は行われていたみたですが、商品Xは動いておらず、伝票の操作だけ で片づけようとしていたということです。これでは、あまりに初歩的で、話にならない会計不正です。

 循環取引は「おいしい取引」であり、一度はじめたら止められな い、といわれています。循環取引によって売上高(と利益)を一度嵩上げしてしまうと、次の年度に循環取引を停止 しますと、売上高(と利益)がガクンと下がることになるのです。この点で循環取引は麻薬のような効果があって、 足を洗うのがむつかい会計不正なのかもしれません。

◆アルコール度数【度量衡の話】◆

 お酒などアルコール類の「強さ」は、日本では「度」、正確には 「アルコール度数」で表現されています。ビールで5度、ワインで10−13度、日本酒で14−16度、焼酎で20-25度、 ウイスキーで40-43度といったところでしょうか。かなり大切な数字で、これを間違えて大酒を飲んだりすると、翌朝 は二日酔いで、たいへんなことになります。

 しかし、このアルコール度数が「濃度」の単位であり、パーセント (%)というお馴染の単位とまったく同じということは、つい先日まで、知りませんでした。13度のワインを飲むとい うことは、総量比で、13パーセントのアルコールを含んだ溶液を口に流し込むということだったのです。

 アルコールの「強さ」を「濃度」で表し、アルコールの「濃度」を 含有パーセントで測定するというのはしごく分かり易いことで、おそらくどこの国にでもあったことにちがいありませ ん。しかし、この発想が日本にも昔からあって、ごく身近なところで使われていたとなると、まったくの驚きです。お 酒の「度」というのは、何の変哲もない度量衡だったのです。

 なお、余分なことながら、環境汚染物質などはPPMの単位で表現され ていますが、これも「濃度」の単位で、パーセントと同類のものだそうです。PPMはPart per millionの略で、100万分 の1の割合を意味する単位です。10PPMというのは、その溶液の中に、100万分の10の割合で、ある汚染物質が含まれて いることを表しています。

◆アメリカのSECが国際会計基準を同等として受け入れ◆

 国際会計基準(International Accounting Standards)はいまでは 国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards)と呼ばれておりますが、各国がこのIFRSをどの ように国内基準として受け入れるかがいま注目の的になっています。資金は国境を越えてグローバルに飛び廻ってい るのに、世界各国がそれぞれ自前の会計基準をもち、その内容がばらばらなのでは、国際的なビジネス活動に支障 がでてしまいます。「コンバーゼンス」(convergence)というのは、国際的な歩み寄りをすすめようとする動きで、 基本的にはIFRSに合わせて各国の国内基準を修正し、国際的な収斂(しゅうれん)を達成しようというものです。

 アメリカのFASBでは、IASBとのジョイント・プロジェクトにより、 このコンバーゼンスの作業を進めていますが、実際に2つの会計基準の差が縮小するのは、かなり先のことになると みられています。現時点における2つの会計基準の隔たりは、あまりにも大きいのです。日本も本年8月8日の「東京 合意」(Tokyo Agreement)にもとづいて、2009年までにコンバーゼンスを達成しようとしていますが、大変な仕事に なりそうな形勢です。

 この情勢の中で、アメリカのSECはとりあえずの措置として、2007 年11月15日に、次の決定を行ったと伝ええられています。アメリカ以外(non-USA)の会社がアメリカの取引所に上場し ている場合、従来ではアメリカの会計基準に準拠する必要があったが、これを修正する。アメリカ以外の会社が国際会 計基準によって財務諸表を作成している場合には、今後は、アメリカの会計基準に組み替える必要はない。国際会計基準 による場合であっても、アメリカの会計基準によるのと同等なものとみなす。これが最も新しい決定です。

 EUでは国際会計基準によっていますが、それは国際会計基準の「一部 修正版」だといわれており、国際会計基準そのままではないのです。中国など、その他の途上国において採用されている 国際会計基準も、純粋のものではなく、「一部修正版」だと指摘されています。国際会計基準を各国において受け入れる とき、受入れ国に不都合な箇所を除去または修正していますので、国際会計基準といっても、いろいろな修正版に変形さ れているのが実情です。これが「カーブアウト問題」です。今回のSECの決定において、このカーブアウト問題がどう処理 されたのかは、不明です。

◆次回の更新◆

  冬のシーズンを迎えます。ご健康にご留意のうえ、よい正月をお迎えください。次回の更新は1月を 予定しています。ごきげんよう。さようなら。


2007.11.23

OBENET

代表 岡部 孝好

okabe@obenet.jp