A Message from Webmaster

 to New Version(July 18, 2007)




2007年07月版へのメッセージ


OBE Accounting Research Lab



Back Numbers [1995年10月 ラボ開設のご挨拶][ Webmasterからのメッセージのバックナンバー]


◆祇園祭り◆

 烈しい台風4号が日本列島の太平洋岸を駆け抜けていきましたが、 皆さん、ご機嫌いかがでしょうか。祇園祭りの京都では、どこもかしこもひとの山で、まだ梅雨がすっかり 明けてもいないのに、ガイジンさんまで浴衣がけです。四条大橋から鴨川を観ると、川原はすでに夏の風情ですし、 セミの声も聴こえてきます(2007年7月17日、河原町通りで撮影)

 4月に同志社大学に「入社」(この大学ではそう いういい方です)するまで、花の京都に通うのだから、毎週観光に出かけてやろうと大いに張り切っていまし たが、仕事にいくのと観光にいくのとでは、やはりこころの準備が違うらしく、たんなる通勤の毎日になってしまって いました。京都らしいことといえば、御所の中の素晴らしい森の小径を抜けて、1駅分だけ、歩いて帰ることぐらいの ことでした。しかし、2週間ほど前から、駅や街路でコンチキチンが鳴っているのを耳にし、祇園祭りが近いのに気づ きました。関西で暮らしていながら、山鉾は初めてのことでしたが、聞きしに勝る光景で、街の賑やかさにも圧倒され てしまいます。

 夏には鴨川の川床で生ビールを、というのがゼミ生との約 束でしたが、7月末にならないと学期末試験が終わらないということですので、9月に延期です。でも、夏の盛りを すぎた秋口の方が、川風が和らぐでしょうから、そのころのビールの味も楽しみです。

◆温暖化ガス排出権の会計問題◆

 地球温暖化を抑制するため、国際的な二酸化炭素(CO2)の排出削減プログラムを 採択したのが、1997年の京都議定書(Kyoto Protocol)です。この京都議定書は2002年に国会可決、閣議決定を経て、日本国に おいて公式に承認されましたし、2005年2月に発効要件を満たして国際条約として効力をもつにいたっています。京都議定 書において、日本は第1約束期間(2008-2012)までに、二酸化炭素(CO2)の排出量を、1990年を基準としてマイナス6%まで 削減する義務を負っています。

 京都議定書においては京都メカニズム(Kyoto Mechanism)が取り決められ ていて、国と国、企業と企業の間で、排出権を売買することが可能です。この排出権取引(emissions trading)を支える 基本的な仕組みの1つがキャップ&トレード(cap and trade)です。たとえば国内の各会社に対して、CO2の最大排出量を 割り当てたうえで、実績排出量がこの上限のキャップを超えると、超過量におうじて重い罰金を科すという制度を設けま す。そしてさらに、実績排出量がキャップに達しなかった会社は、未達分(余裕分)を他社に売却できるものとします。 この簡単なルールがキャップ&トレードです。

 このキャップ&トレードのもとでは、高い罰金を避けたい会社は、実績 排出量がキャップを超えないように最大限の努力をするでしょう。この点は、たしかに交通違反の罰金と同じです。しかし、 キャップ&トレードはそれだけでなはないのです。実績排出量がキャップに届かない会社においては、余裕分を他社に売 却し、収益を稼ぐことができます。この他社への売却分を増やすには、キャップに達していない場合にも、なおもいっそ うCO2排出量を削減しなければならないことになります。こうして、キャップ&トレードは、キャップの超過を抑え込むだ けでなく、キャップ未達の会社にも排出量削減の強い動機を植えつけます。

 キャップ&トレードによる場合、キャップを超えると、罰金が科されま す。しかし、省エネ対策をやり尽くしている日本の会社では、もはやCO2の排出量削減の余地がなく、キャップ以下に抑え 込むためにさらに排出量を削減するとなると、大きな費用を負担しなければならなくなります。この状況においては、他 社から排出権を買い取り、購入したこの排出権を提出することで、罰金を回避できるとすれば、その会社にとっては大き な恵みとなります。排出権の購入価格が罰金よりも安く、しかもそれが排出量削減のための追加投資よりも低ければ、排 出権の外部調達によって費用負担を節約できるからです。これは、排出量削減のための限界費用の高いケースでは 追加投資が抑制されるのに対して、限界費用の低いケースでは反対に促進されることを意味しますから、経済学の教科書 に書かれている通りの効率的な資源配分が実現できることになります(上は合歓(ねむ)の花、池田市 東畑の渓流沿いにて、2007年7月撮影)。 。

 京都メカニズムの重要な特徴はこのキャップ&トレードにありますが、 それと組み合わされているもう1つの重要な要素は、先進国と途上国との間の国際的な協力関係です。先進国(附属書I国) には、1990年を基準とする数値目標(日本はマイナス6%)が決められていますが、途上国(非附属書I国)にはこの数値 目標がありません。排出削減の国際協力にあたり、投資側(投資国)も被投資側(ホスト国)も共に先進国であればその 排出量削減プロジェクトは共同実施(Joint Implementation:JI)といわれるのに、投資国が先進国、ホスト国が途上国であ れば、クリーン開発メカニズム(Clean Development Mechanism:CDM)として区別されています。いずれの国際協力プロジェ クトも、地球規模でみるとCO2を削減する点では同じですから、これらのプロジェクトの実施により実際にCO2排出量を削 減すると、その実績数量に対して排出クレジットが交付されます。この国際事業による排出クレジットはその大部分が投 資国(の投資企業)に配分され、投資国(の企業)の排出削減量にカウントされることになっています。海外の排出削減 プロジェクトによって排出クレジットを手に入れますと、その排出クレジットを日本国内に持ち帰り、排出権として日 本市場で販売したり、自社のキャップ超過分に充当したりすることができるのです。

 日本の会社では、省エネ対策をぎりぎりまですすめてきましたから、 いまさらCO2排出量を切り下げようとしても、その余地はほとんど残されていません。アメリカなど他の先進国において も事情は似たようなものですから、先進国同士のJIプロジェクトによっても、排出クレジットのコストが高くなってし まうのです。これに対して、中国、ブラジル、インド、東南アジアなどの途上国にあっては、省エネ対策はほとんど行 われておらず、発電なども、いまだに石炭が主力になっているのが実情です。そこで、こういう途上国にCDMプロジェク トを持ち込むと、大量のCO2削減量にみあう形で、大量の排出クレジットが入手でき、排出クレジットのコストが大幅に 安くなります。総合商社、金融機関、プラントメーカーなどの日本企業が海外で展開している排出権ビジネスは、ほ とんどがこのタイプのものであり、途上国のCDMプロジェクトで手に入れた排出クレジットを日本に持ち帰り、日本市 場で販売するわけです(下のあやめは池田市水月公園のもの、2007年6月撮影)

 排出クレジットは市場価格をもつ経済財ですから、法律上の権利で はないとしても、会計では資産として扱われ、取得時には取得原価で評価されます。会社の組織内(または会社集団内)に おいて「内製」した場合には原価計算基準によって製造原価が計算されますし、既成の排出クレジットを外部から購入した 場合には、付随費用を加えた購入価格が取得原価になります。取得口により単価が異なる場合には、「原価の流れの仮定」 により、移動平均法、総平均法、FIFO、LIFOなどを適用します。

 問題となるのはその後の会計処理ですが、総合商社のように、転売 を目的として排出クレジットを取得した場合には棚卸資産として扱われますし、電力会社のように、自社使用を目的と して取得した場合には、無形固定資産として処理されます。棚卸資産であれば、販売時に売上と売上原価を認識する ことになりますし、売れ残りの次期繰越高については、期末に低価基準を適用します。他方、無形固定資産であれば、 自社で使用時(数値目標超過分として政府の償却口座へ移転時)に営業費用に振り替えることになります。保有中に 価値が減耗するわけではありませんので、減価償却は行われませんが、減損会計は適用されます。

 これらの点からすれば、排出権の会計処理にまったく問題がないよ うにみえますが、実は、そうでもないのです。排出権は形のない新種の財産であるうえに、最近ではデリィバティブ として取引される例が増えてきています。また、排出権が信託銀行に預託され、小口化された金銭信託の受益権とい う形で、投資家に売り捌かれる手法も拡がってきています。これは排出権がもはや棚卸資産でも無形固定資産でもな く、金融商品の性格を強めていることを意味しています。金融商品であれば、金融商品会計基準を適用するこ とが考えられますが、まだその売買の仕組みが固まっていないために、会計処理の方法が決まらないのです。排出権 はその取引制度そのものが未整備ですが、会計処理についても、未解決の問題が多数残っています。

[参考文献]

会計基準委員会、実務対応報告第15号、「排出量取引の会計処理に関する当面の取扱い」(平成16年11月30日)。

会計基準委員会、改正実務対応報告第15号、「排出量取引の会計処理に関する当面の取扱い」(平成18年7月14日)。

◆一升瓶[度量衡の話]◆

 外国ので”液体”の買い物をすると、容器のサイズと 形がまちまちで、不便な思いをすることが多い。リカーショップの商品は比較的に標準化がすすんで いて、ワインにしろウイスキーにしろ、どの銘柄でも容量は似たようなものですが、容れ物のビン (瓶)の形がどれも違っていて、沢山の買い物をすると、持ち運びにこまってしまいます。ビンの違いこそ セールス・ポイントなのでしょうが、飲んでしまったら容器は廃品なのですから、あまり凝ったものでは、 後の処理に悩むことになります。

 日本では清酒も焼酎も(醤油も酢も)、昔は一升瓶(いっし ょうびん)で売られていて、空になったら、空きビンと引き換えに、新しい酒を買ったものでした。リサイクル 付きのこの伝統的な販売方法はいまも引き継がれていますが、この「美しい日本」の慣行は外国にはまったく見 あたらないものです。日本では一升瓶はあまりにも身近な存在ですので、外国に行ったとき、「なぜ外国には一 升瓶がないのか」、と考え込んでしまったことがあります。外国には「一升」という容量の単位がないのだから、 「当たりまえのことだ」といいたくなるのですが、実は、日本でも江戸時代までは、徳利(とくり)や樽(たる) によっていて、ガラス製の一升瓶ではなかったのです。

 日本伝統の尺貫法では「一升」は容積の単位であり、 1.80391リットルに相当します。一升の10分の1が「一合」(いちごう)、一升の10倍が「一斗」(いっと)に なりますから、十進法です。おコメはいまでは重さの単位(kg)で売られていますが、昔はおコメも容積の 単位で売られていて、「一升枡」で量られていました。「一升枡」というのは、タテ、ヨコが同寸法の 木箱で、その中におコメやお酒を水平まで盛ると、ちょうど一升になるゲージです。

 一升瓶は、和服を着た日本女性の首から下を連想させる優雅 な姿をしています。お酒の容器を清潔で漏らないガラス製に変えたということは画期的なできごとでしたが、こ の優雅なシェイプを取り入れたことも、わたしからみれば画期的なことです。昔の徳利をそのままガラス製にし たのでは、その後の一升瓶の普及はなかったものと思われます。

 その容積が正確に一升になる和服の女性姿のガラスの容器を、 いったいだれが、どのように考案して、製作したのか。これは、わたしがかなり昔から抱いていきた関心事です。 立方体なら、容積の計算はなんとか掛け算で間に合うとしても、しなやかな曲線となると、計算は積分になるの ではないでしょうか。底には窪みがありますが、この窪みの容積はどう計算して、差し引くのか。

 日本最初の一升瓶は明治19年とかで、吹きガラスの製法によっ たといわれています(参照:宮島醤油ホームページ: 社長コラム、一升 瓶の話)。電球のガラスと同じで、長い棒の先に溶解したガラスを巻いて、人間が息を吹き込んだもの らしい。一升瓶の形にするには、吹きガラスの「型」が重要になりますが、これは何度もやり直して、最終的にい まの形に仕上げたのではないでしょうか。つまり、実際は精密な計算によるというよりも、試行錯誤の結果として 生まれたようです。しかし、無名の職人によるこの発明の結果は素晴らしく、その後、日本では何もかも一升瓶と いう時代が長くつづきました。人間吹きのガラスは、その後機械吹きのガラスに変わり、一升瓶は工業生産へ移り ます。

 日本ではいま紙パック、ペットボトルにその座を奪われ、一升 瓶の影は薄くなるばかりです。核家族には大きすぎる、重くて持ち運びが不便、冷蔵庫に入らない、車の中で 転がる、などなどいろいろな悪口が聞こえてきます。しかし、一升瓶とういうのは単なる容器ではなく、 日本の文化そのものです。一升瓶が消えていくということは、日本の文化が消えていくのと同じこと のような気がします。

◆国際会計基準とEUの同等性評価◆

 国際会計基準(International Accounting Standards)は、2001年 の改組を受けて、いまでは国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards)に名前を変えています。 しかし、この会計基準の設定主体は国際会計基準審議会(IASB)のまま(改組以前は審議会ではなく 委員会)ですから、国際会計基準という言葉はいまでも世界中で広く通用しています。そこで、ここでも 国際会計基準と呼びますが、最近ではこの時事会計 用語が、あまりに頻繁に新聞に出てくるので、学生たちの中には、日本の会計基準などいずれ消えて、日本も国際会計 基準に乗り換えるのだと誤解しているひとも少なくないようです。しかし、これは大間違いで、日本は国際会計基準を 批准しておらず、日本独自の会計基準にますます強くしがみついているのが実情です。世界でいま約100カ国が国際会 計基準を採択していて、この数字は数年内に150位まで増えるといわれていますが、日本とUSA(およびカナダ)は独自 の国内会計基準によっており、これからも、この方針は崩さないものとみられています。

 しかし、世界各国がそれぞれ自前の会計基準をもち、その内容が ばらばらなのでは、国際的なビジネス活動に支障がでます。資金は国境を越えてグローバルに動いているのに、会計 基準が異なると、会計数値が比較できなくなって、国際的な投資活動のマサツが大きくなるおそれがあります。そこ で、各国の会計基準の違いをなくそうという声が、かなり昔から高くなっていました (右と下の睡蓮は同志社大今出川キャンパス隣の相国寺の池に咲いていたもの。2007年7月撮影)

 諸国の会計基準を一本に統合する国際的な統一会計基準 (uniform accounting standards)は、たしかに最も望ましいものです。しかし、統一会計基準は理想的ではあっても、 とても達成できる目標ではありません。そこで、できるだけ差異を縮小するという単なる鞘寄せが、現実的な目標に定められ たのです。この国際的な差異縮小活動は1970年代からはじめられていましたが、1990年代の半ばまでは「調和化」 (harmonization)という穏やかな表現のものでした。ところが、いまでは「コンバーゼンス」(convergence)という 強い響きをもつ言葉で表現されています。「コンバーゼンス」というのは、ある1つの会計基準に向けて収斂 (しゅうれん)させていくこと意味しますから、究極の狙いは「統一」というニュアンスをもちます。

 ある1つの会計基準に向けて収斂させていくとした場合には、次に、 いったいどこの国の会計基準に収斂させるかが問題となってきます。論理的な可能性としては、USAの会計基準、国 際会計基準、日本の会計基準など、多数が考えられます。一般には国際会計基準に向けて収斂させることと考えられ ているようですが、それは当然のことではなく、国際会計基準は候補の1つにすぎないのです。

 ところで、EUが成立する以前においては、ドイツ、フランスなど において、それぞれ独自の会計基準が適用されていました。UE結成時にこれら加盟国の会計基準を統一する必要性に 迫られましたが、その調整作業があまりに難航したため、UR理事会では域内の調整をあきらめ、すべてのUR加盟国に おいて、2005年から国際会計基準に全面的に乗り換えると、苦し紛れの決定をしました。

 国際会計基準の設定主体はもともとヨーロッパを活動拠点にして いましたが、EUと国際会計基準審議会はまったく別個のものです。国際会計基準審議会が設定した国際会計基準を EUが採択しただけのことですから、いってみれば国際会計基準という大家の1部屋を、EUという店子が借りたよう なものです。EUは国際会計基準という大家の家の中に住んでいますが、国際会計基準はEUのものではないのです。

 しかし、EUにおける国際会計基準の採択は情勢を劇的に変えました。そ れまでは国際会計基準はどちらかといえば途上国向けの会計指針にすぎないという見方が有力でしたが、このEUの採 択によって、国際会計基準はがぜん影響力を強め、デェファクトの世界標準として幅をきかしはじめています。いい 店子を抱え込んだ大家が威張りはじめたのです。また、店子のEUも態度を変え、自分があたかも大家でもあるかのよ うに振る舞うようになってきています。

 EU理事会は、2004年になって、EU域内の証券取引所に上場する域外 の会社に対して、その会計数値が国際会計基準と同等な会計基準によって作成されているどうかを評価すること を決めました。つまりUSA、日本、カナダの会計基準によって作成された連結財務諸表が国際会計基準に依拠していな いとして、食い違いを指摘しはじめたのです。これが、「同等性評価」(equivalence)の問題です。この同等性評価の 基準作成にあたった欧州証券規制当局委員会(CESR)は、これら3国の会計基準を精査して、「全体として同等」とする 一方で、「補完措置」(remedies)がなければ同等性なしという意見を公表しています。この補完措置には3ランクが あって、「開示A」、「開示B」、「補完計算書」に分けられています。

 「開示A」というのは、すでになされている開示を補強する 追加開示(言葉による定性的情報を含む)であり、13項目が指摘されています。「開示B」は、数字による定量 的な追加情報の開示で、9項目となっています。影響が重要な部類に属する「補完計算書」は、簡略な財務諸表 (調整計算書)の作成を求めるもので、3項目(企業結合会計の持分プーリング法、特別目的会社の連結、在外 子会社の会計方針統一)が指定されています。将来課題の1項目を加えると、補完措置は26項目にわたりますが、 これらの補完措置に応じることは、EU資本市場に上場するUSA、日本、およびカナダの会社にとっては、本国の 会計基準によるだけではダメで、EU域内では国際会計基準によることを強制されることを意味します。

 同等性評価が行われると、大きな追加費用負担となる可能性 があり、日本国内では強い反対の声が渦巻いています。しかし、問題は費用というよりも、むしろタテマエです。 EUが域内で国際会計基準を採用したからといって、域外の会社にまで国際会計基準の採用を要求すると、世界は 鎖国時代に戻ることになりかねないのです。USA市場に上場する会社にはUAS基準だけを、日本市場に上場する会 社には日本基準だけを、EU市場に上場する会社にはEU基準だけを適用するとしたら、3市場に同時に上場する会 社は異なる3基準によって会計数値を作ることになります。これではやっていけないから、国境を閉鎖すること になってしまいます。なお、EUでは同等性評価を2005年からの実施するとしていましたが、2009年からの実施に 延期されています。

[参考文献]

西川郁生、「我が国の会計基準と国際的コンバーゼンス」、『国際会計学会年報』(2006年度)、5-14頁。

藤井秀樹、「会計基準の国際的コンバーゼンスとわが国の制度的対応―EUの同等性評価を中心として―」、 『国際会計学会年報』(2006年度)、15-24頁。

辻山栄子、「会計基準のコンバーゼンス」、『企業会計』58巻10号(2006年10月)、4-14頁。

斎藤静樹、「コンバーゼンスの意義とIFRSへの役割期待」、『企業会計』第59巻8号(2007年8月)、14-24頁。

◆子会社の上場◆

 親会社は子会社を支配していて、子会社を意のままに動かす ことができます。いまは連結決算制度になっていますから、子会社の業績は親会社の業績に反映されていて、 子会社の業績が良好になれば、親会社の業績も良好になる仕組みになっています。このため、好業績の子会社 を抱える親会社では、その株価が高くなるものと考えられています。

 しかし、日本には変則的な市場ルールがあって、子会社でも 証券取引所に上場できますから、親子両方が株式投資の対象となっています。子会社の業績がよくなったとき、 投資者は親会社に投資することによって子会社の好業績に参加することもできますし、また子会社に直接に投 資して、その好業績の分け前にあづかることもできます。

 連結決算制度の考え方からすれば、親会社の方に投資するの が本スジなのだから、子会社の方へ投資するのは、間違いではないにしても、脇道をすすむことになります。子会 社に投資しても、その子会社は親会社に支配されていますから、少数株主持分として、債権者なみの影 響力しか与えることはできないのです。

 NECエレクトロニクスという会社はNECの子会社で、上場会社 です。この子会社のNECエレクに投資し、かなりの少数株主持分を握っているアメリカの投資ファンドが、親 会社に支配されていては、子会社の意思決定に影響力を発揮できないとして、このほど親会社に株式を手放すよ うに要求したと、メディアは報じています。少数株主持分をいくら買っても、影響力など手に入らないわけです から、子会社と知っていて投資したのなら、まったく奇怪な要求です。しかし、制度上に問題がないともいえま せん。

 もともと子会社の上場を認めることが変則的なのだから、将 来的な課題としては、子会社の上場を廃止すべきです。日本には350ほどの子会社が上場されているといわ ていますから、これを市場外に移す方策を考える必要があります。ローカルな市場ルールを維持することは、い くら証券取引所の収益を高めることであっても、よいことではないのです。

◆次回の更新◆

  いよいよ夏のシーズンに入ります。ご健康にご留意のうえ、夏の日々をお楽しみください。次回の更新は10月を 予定しています。ごきげんよう。さようなら。


2007.07.18

OBENET

代表 岡部 孝好

okabe@obenet.jp