A Message from Webmaster

 to New Version(January 1, 2007)




2007年01月版へのメッセージ


OBE Accounting Research Lab



Back Numbers [1995年10月 ラボ開設のご挨拶][ Webmasterからのメッセージのバックナンバー]


◆賀春◆

あけまして、おめでとう、ございます。

  暮れも押し迫ってから、海遊館と隣のサントリーミュージアム(「ポンペイの輝き」)を訪れたと き、入り口で年齢を訊かれましたので、正直に答えたところ、入場料を25%まけてくれました。恥ずか しながら、65歳(元旦が誕生日)になったわけですから、言うことも(書くことも)、25%慎まなけれ ばならなくなったのかもしれません。テニスの方は、仲間にカモにされるケースが25%以上増えて きた感じですが、これは何とか盛り返したいと思っています(海遊館で一番人気のジ ンベエザメは、性格がよさそうで、小魚たちに大もてでした:2006年12月撮影)

 今年も、3ヶ月のペースでWWW.OBENET.JPの更新をつづけ ていきたいと考えていますので、よろしくお願いします。

◆ポイント制と売上高の過大計上◆

  ポイント制(ポイント・カード)の起源ははっきりしていませんが、家電の量販店では1985年ごろ、 東京のヨドバシカメラ、 ビッグカメラから拡がったといわれています。販売価額の5%−20%のポイントを顧客に与え、 一定のポイントに達したら、その顧客にタダで(あるいは割引価格で)商品を渡す仕組みになっ ています。リピーターを増やし、顧客を「囲い込む」効果があり、いまではありとあらゆる業 界において定着してきています。航空機、レンタカーなどのマイレージカードも、このポイント制 のひとつです(下の黄色コスモスは池田市アゼリアホール喫茶店前:2006年12月撮影)

  売り手側からすると、ポイント制は販売価額を割り引くことを意味しますから、値引きの1種とみるこ とができます。しかし、顧客の購買実績におうじて報奨を渡すという点からすると、ポイント制は リベート制によく似ています。現金の代わりに現物(商品)を渡すという点では、また景品に似ている ところもあります。いずれにしても、売り手では実質的な販売価額を引き下げているわけですから、 顧客に提供したポイントの金額だけ、売上高を引き下げる必要があります。しかし、この売上高の 修正処理をしている会社は、ほとんどないのが実情です。これは、売上高が過大計上されているこ とを意味しています。

  ポイントには有効期限があり、2年経過すると、権利が消滅するケースが多いといわれています。 しかし、この有効期限内においては、売り手の会社では顧客の請求におうじて商品を引き渡す義務 が活きています。この義務が貸借対照表から脱落しているという点では、負債の過少計上です。ポ イントの提供義務は、オフバランス負債(貸借対照表に載らない負債)になっています。このオフ バランス負債は巨大な金額になっている可能性がありますので、早急な対処が必要だと思われます。

  ポイント制を採用すると、顧客の購買意欲が刺激されて、当期の売上高が増加します。顧客からの ポイントの請求(権利行使)が当期中に出てくれば、このポイント提供高と当期売上高の増加とが 同一期間に発生したものとして、当期の売上高の修正を行うことができます。しかし、ポイントは2年間 にわたって累積していくものですから、ポイントの提供高は、その多くが次期以降にずれ込みます。 とすれば、当期末においては、将来期間に出てくると予想されるポイントの請求高を見積り、この 見積高を負債に計上する必要が出てきます。テクニカルにいえば、引当金の処理が不可欠になりま す。

  ポイント制は顧客に請求権を与えるものであり、実際に請求が出てくるのかどうかは顧客の側で決 められます。オプション(選択権)をもつのは顧客であり、顧客の権利行使によって、実際のポイントの提供高が決 定されます。期末における負債(引当金)の見積りにあたっては、この顧客の権利行使の確率を見 定めることが必要になります。この確率の評価は簡単なことではないでしょう。

  なお、実際のポイント提供高は、顧客の権利行使あった期間において、販売奨励金(営業費用)と して処理するのが一般的ですが、これは好ましい会計処理とはいえません。

◆電線ドロボー◆

  若い人はご存知ないことですが、1950年代に、日本でも電線ドロボーが横行したことがあり、 電柱の電線がそっくり切り取られる盗難事件がよく発生していました。嵐でもないのに、真夜中に 停電すると、「あ、またか!」とローソクを捜しにいったのを思い出します。報道によると、この電線ドロボーがいま東 アジアで大流行になっていて、インド、タイ、中国、韓国などで多発しているもようです。大型機械 があるためか、一夜のうちに何キロメートルもの電線が盗まれることがあるらしく、韓国では、電 力線、通信ケーブルの電線ドロボーを通報したら、報奨金が出ると聞きました。

  電線ドロボーの背景は、もちろん胴価格の高騰です。ことしは原油価格が信じられないくらいに高くなりました が、貴金属、鉄鋼、鉛、胴、レアメタルなどの金属の値段が軒並み高騰し、また乱高下しつづけま した。原因が戦争にあるのか、旺盛な内需にあるのかは不明ですが、いまも高値水準がつづいてお り、銅の建値(取引価格)も、高く張り付いたままです(図参照)。この金属 価格の動きにつられて、昨年はそれに関連する会社の株価がかなり激しく変動しました。

  電線ドロボーに盗まれた電線はリサイクル業者の手に渡って、再び銅になります。銅(とか金)は 溶解すれば新品になりますから、何度でも使えます。銅価格の高騰は銅のリサイクルをも促している もようですから、環境へは好影響を与えていることになります。

◆株主判明調査が大流行◆

  敵対的買収が増えてくるとともに、株主判明調査サービスが大盛況になってきています。株主総会で 議決権を行使するのは株主ですが、株式は毎日売買されていますので、株主はいつも変化しています。 敵対的買収という点からすると、大口の株式を売買する機関投資家の売買動向が気になりますが、そ の中でもガイジンの機関投資家の売買状況は特に要注意です。ソニーなどの例を持ち出すまでもなく、 最近ではガイジンの持株比率が50%を超えている会社が少なくないのです。

  会社には株主名簿がありますが、その名義書換えは遅れがちで、カレントな株主状況を反映してい ません。そのうえ、機関投資家や投資ファンドなどが保有する株式は信託銀行に預託されていて、 この「信託口」については、形式上の株主名義は信託銀行になっています。海外の機関投資家 が日本国内の株式を取引する場合には、直接株式を決済したり保管したりするのが困難なので、 株式の決済・保管などを請け負う資産管理専門の信託会社に株式の管理を任せています。このため、実質の 株主がだれなのかは、不明なのです。株主判明調査サービスは、この不明の実質株主を突き止めて、依頼を 受けた会社に報告するのです。

  日本では5%以上の株式を取得した場合、5営業日以内に大量保有報告書を提出するよう義務づけら れています。しかし、機関投資家などには提出を先延ばしできる特例があるうえに、小口の買い増 しには報告の義務がないのです。特に「信託口」については名義貸しになっていますので、国内でも、 実質株主の割り出しは容易なことではありません。株主判明調査の手法は公開されていませんが、機 関投資家や投資ファンドなどへの聞き取りが中心だといわれています。あらゆる手立てを尽くして 追跡するので、最終的には7〜8割は実質株主を突き止められるといっていますが、その精度が株主 判明調査サービスの品質の違いになるのでしょう。

  アメリカにおいては、SECの規制により、機関投資家側(投資規模1億ドル以上)に投資先会社 リストの公開が義務づけられています。日本にはこの規制がないために、会社の側から実質の株主 を突き止めることができないのです。株主判明調査サービスは、この隙間を狙ったニュービジネス です。敵対的買収の圧力が高まるとともに、このサービスの需要はますます増えそうな形勢です。

◆いたちごっこのリース会計基準◆

  銀行からカネを借り、設備を買う。これが戦後日本の典型的な設備投資のパターンでした。このた めどこの会社でも、借金の山に苦しんでいました。ところが1960年ごろ、リース取引というミラク ルがアメリカから輸入され、事情が一変しました。銀行からカネを借りる代わりに、「設備を借り ると」いう新手口が流行りだしたのです。借りた設備は銀行のもちもので、会社の資産ではないか ら、会社の貸借対照表には載せられません。他方、カネも借りていないわけですから、これも貸借 対照表の負債にはならないことになります。こうして、会社の貸借対照表から設備投資に相当する 資産と負債がそっくり抜け落ち、会社の見栄えがすっきりしてきたのです。これがリース取引がも たらしたマジックであり、またたく間に日本中に拡がっていきました。いまではリース産業は肥大 し、10兆円産業だといわれています。

  たしかにリース取引によれば、借りた設備は他人の所有物なのだから、これを自分のものとして貸借対 照表に計上するのには無理があります。カネも借りていないとすれば、負債の返済義務もないので す。しかし、このカタチは「資産の所有権」という法形式だけのことで、実質でみると、設備投資 をしたという点に変わりはないのです。銀行のカネによって、設備を導入し、その設備を使って生 産しているのですから。

  リース取引は会計数値のゴマカシであり、人をだます手口ではないか。資産の所有権という法形式 を操作することによって、貸借対照表の裏側に資産と負債を隠しているのではないか。こういう声 が高まってくるとともに、リース会計基準が生まれました。リース取引は実質的にみると、銀行か らカネを借り、その借りたカネによって設備を買ったのと同じことなのだから、設備を資産に計上 するとともに、同額の負債を認識してはどうかというわけです。リース会計では、形式よりも実質 を優先し(実質優先の原則)、隠された資産と負債をオンバランスにします。

  リース取引といっても、数日だけレンタカーを借りるのは設備投資とはいえません。そこで、リー ス会計基準では、レンタカーを借りるとか、ビルの1室を借りるといった取引は、オペレイティング ・リースと呼んで、設備投資に相当するリース取引から除外しています。他方、実質的に設備投資に 相当するリース取引はファイナンス・リースと名づけられ、このファイナンス・リースに限って、 貸借対照表に資産と負債として計上することになっています。要するに、ファイナンス・リースは分 割払いによって設備を購入したのと、ほぼ同等の扱いです。

  ファイナンス・リースについてだけであっても、リース取引を貸借対照表にオンバランスするという のは、リース会社にとって大きな痛手です。リース取引による資産と負債を貸借対照表の裏側に隠せ るというのは、リース会社の一番のセールス・ポイントだったからです。そこで、リース会社は業界 をあげてリース会計基準の制定に反対し、その骨抜きに奔走しました。しかし、部分的な修正はなされ たものの(この部分的な修正が後に禍根を残すことになったのだが)、日本でも1993年にリース会計 基準が正式に採択され、翌年から施行されました。

  リース会計基準が制定されてしまうと、リース会社では細部の再検討によって、何とか換骨奪胎する 方法はないかと研究をはじめました。リース会計基準の抜け穴を捜し、その適用を免れようとしたの です。その結果、リース会計基準には「例外条項」があり、その例外条項に合致するようにリース契 約を改訂すれば、リース取引を引き続きオフバランスにできることがわかってきました。そこで、リ ース会社はその顧客との契約書をいっせいに書き改め、従来と同じビジネスをつづけてきたのです。

  会計基準の歴史において、リース会計基準ほど無力な基準は他に類をみません。日本の大会社の中に はアメリカの証券取引所に上場している会社がかなりありますが、これらの会社にはアメリカの会計 基準が適用されるために、リース取引は貸借対照表にオンバランスになっています(アメリカのリー ス会計基準には例外条項がない)。しかし、日本の上場会社において、リース会計基準が指示するオ ンバランス処理に変更した会社はほとんどなく、従来のオフバランス処理がまかりとおっています。 わたしの知るかぎり、リース会計基準のオンバランス処理をしているのはわずかに3社で、富士通、 ブリジストン、日産自動車の例があるだけです。

  この惨憺たる状況を受けて、新しいリース会計基準(2007年4月より適用予定)が制定されることにな っています。ファイナンス・リースについての例外条項が外され、一律にオンバランス処理が適用され ます。しかし、1件300万円以下の小額リース取引(および契約期間1年以下)についてはオフバラン ス処理が許容されるということですので、パソコンなどのリース取引はこれまでと同じです。

  日本の会社でリース資産が最も多いのは航空運輸業で、日本航空で4,000億円、全日空で1,000億円の 航空機がオフバランス処理されているといわれています。ツルのマークのジャンボ・ジェット機など はほとんどはが借り物で、リース取引によっているのです。新会計基準によってこれらが貸借対照表 の表側に現れてくると、資産合計と負債合計が膨れ上がってきますので、そうでなくとも見劣りのす るROIなどの財務比率が、航空会社ではいっそう悪化してくるのは確実です。

◆吉野の中千本◆

  吉野は桜の名所としてだけでなく、紅葉の名所としても広く知られています。11月末、大学からの帰り 道、大阪阿倍野駅で近鉄特急を捉まえ、吉野へ。線路はくねくね曲がっているみたいでしたが、吉野 川(下流では紀ノ川)沿いの秋の風景はなかなかのもので、ご当地名物の柿の葉寿司もビールにぴった りの味でした。桜は吉野山一帯に広がっていますが、高さによって4地域に区別されていて、 下千本、中千本、上千本、奥千本といわれています。終点の1駅前で下車して、中千本にタクシーで向 かったのはまったくの正解で、意外にも山道は狭く、また険しく、徒歩で登ったら、途中であきらめていただろ うと思ほどでした(ただし、途中までケーブルがあります)。

 吉野の山上にはたくさんの神社仏閣がありますが、どれも南北朝時代のおそろしく古いものです。後醍醐天 皇ゆかりのものも、いくつかありましたが、タクシーを待たしての飛び歩きで、ほんの数ヶ所に立ち寄っ ただけに終わりました。春の桜のころ、もういちど訪れ、もうすこし念入りに観て回りたいと思っていま す。

  先般の大嵐によって桜の葉っぱがもぎ取られてしまったということで、ことしの紅葉はもうひとつとい う話でした。しかし、さすがは吉野で、桜ももみじも古木ばかりで、青空に広がる紅葉のにぎわいは見 事なものでした。

◆面積とタタミ[度量衡のはなし]◆

  1980年、カナダのブリテッシュ・コロンビア大学(UBC)に留学していたころ、リチャード・マテシッチ (Richard Matessich)教授に食事にお招きいただき、興味深いお話をお伺いするチャンスが何度かあり ました。その1つが、日本のタタミの話です。

  西洋では(たぶんはそのほかでも)、広さとか面積を測るときには正方形を単位にして、1インチ四方 のタイルが何枚分、1フィート四方のタイルが何枚分などと広さが表現されています。この発想は現代の 世界標準のCGS(centimeter-gram-second)にも引き継がれていて、平方センチメートル、平方メートル、 平方キロメートルなどという表現が使われています。アメリカなどでは、農場の広さ測るときにはエーカ ー(acre)が使用されますが、このエーカーもロッド(rod)という長さの単位にもとづいていて、1エーカ ーは160平方ロッドに換算されています。これらはいずれも正方形の単位ですから、記号で表す場合には、 1辺の長さの二乗として表記されています。

  マテシッチ教授は、「日本では、奇怪なことに、長方形が単位になっている」といいます。部屋の広さはタ タミの枚数で「4.5畳」、「6畳」などと表現されていますが、このタタミは長方形です。タタミ を横に2枚継ぎ足すと正方形になりますが、このタタミ2枚分の正方形が「1坪」(ひとつぼ)という上位の単 位になり、30坪の広さが「1畝」(ひとせ)に、さらに10畝が「1反」(いったん)に換算されます。 これらの広さの単位は相互に換算可能ですが、その基本となっているのは、長方形のタタミです。マ テシッチ教授は、「だから、日本人はアタマがどうかなっている」とおっしゃっていました。

  このご指摘に関連する興味深い事実は、タタミ1枚の長さが180cm、その幅が90cmだとすると、タタミ1 枚には、「人間の大人1人が寝れる」という点です。昔の日本人には、180cmを超えるような大男も大女 もいなかったはずですから、タタミ1枚の広さがあれば、十分に横になれたと思われます。したがって、 「1畳」という単位は日本人にとってのベッドサイズで、最低限の居住空間を表していることになりま す。タタミ1枚という長方形は、日本人の生活に密着した広さの単位であり、深い意味合いを含んでい るのです。

  すこし余談になるのかもしれませんが、1畝=30坪=60畳は100平米弱ですから、一軒の家を建て、家族 5人が暮らしていける広さです。1反=10畝=300坪=600畳は、その土地でお米を栽培すると、家族5人が 1年間食べるお米(およそ500kg)が採れる広さです。タタミ1枚の畳だけでなく、坪、畝、反などの面 積の単位も、日本では日々の暮らしに密接につながっています(木へんに冬と書いて「ひいらぎ」と読むが、この柊(と八手)は冬にしか咲 かない。どこかで読んだ話だと、これらの冬に咲く花は格別においしい蜜をもっていて、寒風の中を飛 ぶめずらしい種類の蜂を誘うのだという)

◆繰延資産の会計処理方法の変更◆

  昨2006年8月に、繰延資産の会計処理方法が変更されました。従来では8本の繰延資産がありましたが、 そのうち社債発行差金と建設利息の2本が廃止になり、新株発行費が株式交付費に統合されました。 旧来の繰延資産の中でそのまま残ったのは、社債発行費、創立費、開業費、開発費の4つだけです。

  新しい繰延資産となったのは、新株発行費、社債発行費、創立費、開業費、開発費の5項目ですが、い ずれもその会計処理方法は大幅に変更されています。これらの5つの繰延資産については、費用処理が 原則的方法であり、繰延資産に計上するのは例外的な処理になります。例外的に繰延資産として処理す る場合にも、その償却方法が指定されていて、指定の償却期間内(この償却期間は以前とほぼ同じ)に、 定額法によって(均等額以上という言いまわしはなくなりました)減価償却を行うことが要求されてい ます。

  社債の券面額とは異なる金額で社債を発行した場合には、以前では券面額と払込価額の差額は社債発行 差金とされ、割引発行のときには繰延資産とされてきましたが、この社債発行差金は廃止となっていま す。社債発行時点における社債(負債)の評価額は払込価額としておき、将来の満期日に券面額によっ て社債が償還されるまで、この払込価額が時間ベースで調整されていくと考え、毎期末に社債(負債) の評価額を調整します。これは、金融商品会計における償却原価法を適用することを意味しています。

  会社法(および国際会計基準)においては、新株交付費、社債発行費を株式や社債の払込金額から直接 に控除する処理を容認しています。しかし、繰延資産の新ルールでは、この会計処理は認められていま せん。

  なお、新ルールのもとで繰延経理が認められている開発費は、天然資源の開発費を指しており、旧来の 試験研究費とは別物です。通常の会社における試験研究費は研究開発費であり、この研究開発費はすべ てが即時費用化処理されます。研究開発費が繰延資産とされる余地は残されていません (右は12月になって阪南大学の近くの畑に咲いていた珍しい花。畑で作業中のおじさんに訊くと、 「ダリア」と教えてくれましたが、綴りも真偽も不明。中空で節のある竹のような茎が3mほど伸びていて、そ の頂上に大柄の花がついていました:2006年12月撮影)

◆100%減価償却と2.5倍定率法◆

  日本の減価償却制度は法人税法によって支えられていますが、その基本的な仕組みは取得価額(固定資 産の調達価額)から10%の残存価額を差し引いて、この償却価額を耐用年数にばらまくというものです。 耐用年数が何年になるかは、資産の種類別に法定されています。毎年減価償却をつづけますと、この法 定耐用年数の終了時には、取得価額の90%まで償却され、10%だけ残ることになります。

  法定耐用年数の終了時に固定資産を廃棄するかといえば、必ずしもそうとは限られません。固定資産が まだ使える状況であれば、引き続き使おうとします。法定耐用年数は、どちらかとえば短めに決められ ていますので、ほとんどの固定資産は、耐用年数が尽きた後でも、使い続けられことになります。この 継続使用の場合においては、法定耐用年数の以降であっても、特例により、さらに減価償却を行うこと が認められています。しかし、この追加の減価償却は取得価額の5%が限度になっていますので、固定 資産の減価償却の最大額は95%どまりです。これが「95%償却」と呼ばれているものです。

  いま税制改革で議論になっているのは、この95%償却を100%償却に変えるというものです。95%償却 を100%償却に変えると、減価償却の合計額が5%だけ増え、これに対応する納税額(約40%)が減少し ます。しかも、耐用年数内に100%まで償却してしまいますので、実質的には、減価償却の合計額は10 %も増えるる計算になります。

  この100%償却の実施は平成19年度からの予定であり、詳細はまだ明らかではありません。しかし、技 術的には、新しい償却方法が導入されることは避けられない見通しです。次が、その要点です。

(1)従来の定率法を廃止して、代わりに「2.5倍定率法」を採用する。

(2)2.5倍定率法のもとにおける減価償却費が、残存耐用年数における平均減価償却費(定額法の減 価償却費)を下回ってくると、その時点以降においては平均減価償却費を損金(費用)とする。

  2.5倍定率法というのは、定額法の減価償却における償却率をまず計算してみて、この定額法償却率の 2.5倍を定率法の償却率とするものです。耐用年数が10年なら、取得価額の10%が定額法の償却率とな りますので、2.5倍定率法の償却率はその2.5倍の25%となります。この償却方法はアメリカ所得税法に おける「倍額逓減法」(double decling balamce method)と同じもので、アメリカでは2.0倍なのに、日 本では2.5倍になっているだけの違いです。

  少しだけややこしいのは、耐用年数の後半です。2.5倍定率法による場合、通常の定率法と同様に、 年々の減価償却費は逓減していきます。耐用年数の後半では、固定資産の未償却残高(帳簿価額)も 少なくなってきていますが、その未償却残高を残りの耐用年数で割って、残存期間の平均減価償却費 (定額法の減価償却費)を試算してみます。そして、もしこの平均減価償却費が2.5倍定率法の減価償 却費よりも大きい場合には、2.5倍定率法を停止して、定額法に切り替えます。

  この100%償却によりますと、法定耐用年数が尽きた後では、固定資産の帳簿価額はゼロとなってし まいます。この場合には、固定資産の存在を帳簿に残すために、1円とか100円とかのわずかの金額を 未償却残高としますが、これが備忘価額と呼ばれているものです。

  95%償却を100%償却に変更すると、減価償却費の総額が増え、会社の税負担が軽減されるのは事実で す。しかし、法定耐用年数が現在と同じでは、それがビジネスの活性化にどれほど役立つのかははっ きりしません。減税によってビジネスを活性化したいのであれば、むしろ法定耐用年数の短縮の方が有 効であろうと思われます。税制改革との関連において法定耐用年数の短縮も議論されているみたいです ので、この方向の議論の進展に期待したいと思います。

◆次回の更新◆

  いよいよ本格的な冬に向かいます。ノロウイルスは沈静化の方向とお聞きしましたが、風邪をお召しにな らないようくれぐれもご注意いただきたいものです。次回の更新は3月を予定しています。ごきげんよう。 さようなら。


2007.01.01

OBENET

代表 岡部 孝好

okabe@obenet.jp