A Message from Webmaster

 to New Version(July 1, 2006)




2006年7月版へのメッセージ


OBE Accounting Research Lab



Back Numbers [1995年10月 ラボ開設のご挨拶][ Webmasterからのメッセージのバックナンバー]


◆青葉と滝◆

  阪急箕面線の終点「箕面」からはじまる川沿いの坂道は、 豪華な紅葉で知られていて、シーズンには繁華街のように賑わ います。このなだらかな「滝道」のどん詰りには一筋の滝が落ちていますが、 紅葉のころの滝は細くなっていて、滝壺に静かにそそぎ込んでいるのが みえるだけです。まわりの紅葉が流れを引き立てますから、それでもサマになっ ていることはたしかですが・・・。

  梅雨のいまごろの滝は雄大で、轟音をたてて、はげしく滝壺を叩いていますが、 この風景はあまり知られていないようです。あたりは水しぶきがたちこめ、濃い 霞のように、じっとりと漂っています。もっとすばらしいのは濡れたもみじの青葉 で、青もみじの木立の中には、清らかな空気が溢れています。小雨のぱら つく午後は人影もまばらで、何年ぶりかのことでしたが、森の小路の散策は こころが洗われる思いでした(写真は2006.06.26撮影)

◆近日発売! 『最新 会計学のコア(改訂版)』◆

  わたしの著書『最新 会計学のコア』(森山書店)は2003年に出版されたも ので、まだ3年しかたっていません。しかし、その間に、新しい会計基準 がつぎつぎに生まれ、日本の会計ルールがすっかり変わってしまいました。 その極めつけとなったのが新しい会社法と会社会計規則の制定です。旧商法 時代とは、会社とその会計の仕組みがまったく変ってしまい、あちこちを書 き改めざるをえなくなりました。春先から奮闘のすえ、ようやく改訂版の出 版にこぎつきました。近日、発売のはこびです。

  新会社法は「会社法制の現代化」という触れ込みでしたから、旧商法のカタ カナの条文がひらがなになるのはもとよりとして、マンガしか読ま(め)な い異星人でも、サラッと読み下せる平易な法律が生まれるものとばかり思い 込んでいました。ところが、新会社法というのはとんだクセモノで、この道 のプロでも、これを読むと髪の毛が抜け落ちるような難解な法律です。新しい改 訂版では、この難しい法律をわたしなりに解きほぐし、できるだけやさしく 解説するのにずいぶんと汗をながしました。

  日本の出版事情は年々きびしくなってきており、初心者向けのこのような本で も、街の書店で専門書の棚に並べると、ほとんど売れません。インター ネットのブックショップでも、この種の本にはあまり注文はこないということで す。出版社の苦しい台所事情もわかっていますので、たった1,000冊しか刷ら ないとしても、売り捌かないわけにはいきませんが、さてどうしたもかといま 頭を痛めているところです。特に岡部ゼミの卒業生の方には、売上げにご協力 いただけますと、助かります。

◆実証会計学研究会(SOPAT)の開催◆

 

久しぶりに、実証会計学研究会(SOPAT)を開催することになりました。この 研究会は、実証会計学についての新しい文献を検討する文献検討会です。だ れにでも開かれているオープンな研究会ですので、登録すれば、自由に参加 できます。テーマはやや大きめですが、次世代に向けた新しいアプローチを 模索したいと思います。IRHはその可能性の1つといえそうです。

  1.日時:2006年7月9日(日)14:00−

  2.場所:大阪市北区中ノ島1丁目2−10、大阪府立中之島図書館別館

       神戸大学 大阪経営教育センター(サテライト教室)2階

  3.テーマ:Imcomplete Revelation Hypothesis(IRH)を考える

   Efficient Market Hypothsis(EMH)の時代は終わったのか。EMHがいう "anorMalies"はIRHによって「説明」できるのか。IRHは単にEMHを補強 するだけなのか。IRHはEMHには対抗できない「ゴミ」なのか。こういっ た大問題を議論します。

   4.プログラム:次の2本の文献を検討します。

  第1報告(14:00−15:20) Robert J. BlooMfield, "The 'IMcoMplete Revelarion Hypothesis' and Financial Reporting," Accounting Horizons, Vol.16, No.3 (SepteMber 2002), pp.233-243.

  第2報告(15:40−17:00) JaMes E. Hunton, Robert Libby and Cheri L. Mazza,"Financial Reporting Transparency and Earnings ManageMent," The Accounting Review, Vol.81, No.1 (January 2006), pp.135-157.

  第3報告(17:30−19:00):ビヤパーティ(北新地のすばらしいイタリアン・レストランにご案内します)

  *参加費無料(懇親会費は別)。

  *検討する文献は、各自でご準備願います。

  *参加の登録には、次の登録スクリーンが準備されています。http://150.9.160.40/registry/touroku.htm

  *場所については、次に案内があります。http://www.riam.jp/

(矢田寺のアジサイ 2006.06.24撮影)

◆紫陽花◆

  梅雨は紫陽花(アジサイ、hydrangea)の季節です。金剛さんの麓、 矢田寺(大和郡山市)への参詣を思いつき、土曜日の夕刻、群生するアジサイを楽 しませていただきました。評判どおり、境内から裏山の林に拡がるアジサイの花 また花は見事なものです。8,000株とかいっていました。種類が多彩で、 手入れがいきとどいているの印象的です。

  矢田寺は山あいにありますので、トレッキング・シューズのハイカ ーとすれ違うケースがかなりありましたが、自分のことを棚上げに していえば、やはりシニヤの方が大部分。これもわたしと共通す ことですが、皆さんデジカメをおもちで、パチパチやっていました。

  わが家のアジサイは1株だけですが、ようやく花がつきはじめたと ころです。矢田寺のアジサイを見たあとでは、貧素な感じはいなめま せんが、これからが本番でしょうから、楽しみにしているところです。

◆ポイゾン・ピルが大流行◆

  6月末は株主総会のシーズンですが、今年の話題の中心はポイゾン・ ピル(poison pill)です。直訳すれば「毒薬」になりますが、会社の 乗っ取りに対抗するためのテクニックの1つです。村上ファンドが阪 神の株式を47%も買い占め、乗っ取りを仕掛けてきたので、それに震 えあがった日本中の会社が、大あわてでポイゾン・ピルを調剤し、定 款に埋め込んでいるのです。やや長くなりますが、その仕掛けを説明 します。なおポイゾン・ピルには、ライト・プラン(write-plan)など の別名があります。

(1)乗っ取りと投票権

  会社のオーナーは株主ですから、会社の基本的なことは何もかも株主 たちによって決められます。その決定の場が株主総会であり、株主総 会の決定は株主たちの投票(議決)によります。株主には1株につき 1票の投票権が公平に渡されますので、51%の株式を握ってしまうと、 その会社を思うように動かすことができます。単純な多数決の世界です から、過半数所有の株主は、会社の基本的事項を定める定款を好きな ように書き換えられますし、腹心の者を役員に指名することもできま す。

  会社の乗っ取り対策では、投票権のある株式(議決権つき普通株式)が 関心の焦点ですが、この株式がたとえば何とかファンドのMさんに買い占められた場合に は、新たに株式を発行して、総株数を増加させるのが、乗っ取り対策の 1つになります。新株を発行して、総株数を増加させると、投票権の総 数が増え、Mさんの投票権のウェートが下がります。

  今年の株主総会において、多数の会社が定款を変更し、株式の発行枠 (授権株数、発行可能株数)を大幅に拡大しましたが、それは、「いざ」 という時に、機敏に新株を発行できる体制を整えておきたい、という狙 いによるものです。たとえばシャープでは、19億株から25億株に、テイ ジンは19億株から30億株に、この発行枠を増やしています。

(2)新株予約権

  新株の追加発行は買占めの初期段階では有効ですが、買占めがすすんで しまうと、もう手遅れです。たとえばMさんが20%の株式を握った段階に おいて、あわてて新株を発行しますと、株主のMさんも新株の引受権を もっていますので、新株の20%がMさんの手に渡り、議決権の割合いは 前と同じになります(その前にMさんが大株主として新株発行に反対する 可能性もあります)。そこで、考え出されたのが、ポイゾン・ピルです。

  ポイゾン・ピルでは、正式の株式を発行する代わりに、新株予約権という 「予約チケット」を発行します。このチケットは甲子園球場の入場券とい うよりも、入場券を買うための「整理券」(ただし記名式で譲渡禁止)の ようなもので、このチケットをもっていると、会社の株式が買えるという だけの紙切れです。このチケットは有償のこともありますが、タダでもら えることも多く、会社の役員や従業員に渡される新株予約権(ストックオ プション)は、ほとんどがタダのものです。

  新株予約権というチケットを会社に提示すると、それと引き換えに会社の 株式がもらえますが、ふつうの場合、この株式はタダではありません。チ ケットには、有効期間(権利行使期間)のほかに、株式の購入価格(権利 行使価格、払込金額)が書かれていますので、その金額の現金を支払わな いと、株式をもらえないのです。しかし、この払込金額は著しく低く定 められているケースが多いので、大幅な安値で株式を購入できる(そして時価で 高く売却できる)という点で、大儲けのチャンスにつながっています。

  ポイゾン・ピルにおける新株予約権というチケットは、投票権の総数を膨 らませ、敵対的買収者のMさんの影響力を引き下げることを狙いにしていま す。そこで、タダでチケットを発行するだけでなく、そのチケットと交換 に引き渡す株式の購入価格(払込金額)もまたゼロと定めます。新株予約 権というチケットが会社に提示された(権利行使された)とき、会社では現金の払込みを 求めず、無償で、新株式を渡すのです。この時の新株の引換比率が1対1 の場合には、タダで新株をもらったあとでは、既存の株主のもつ株数は2 倍に膨らんでいます。

  全部の既存株主に株式をタダで渡しますと、会社の株式総数は、したがっ て投票権総数は、2倍に増加します。しかし、これでは、敵対的買収者の Mさんの持株数も2倍に増えてしまいます。そこで、定款において、敵対 的買収者のMさんについては、権利行使を認めないと決めておくのです。M さんだけが権利行使ができないとすると、Mさんの株数は元のままです。 これが、ポイゾン・ピルの第1の細工です(下の半夏生、ジャスミン、芙蓉はわが家のもの 2006年5/6月撮影)

(3)取得条項

  新会社法では、普通株式、優先株式にだけでなく、新株予約権(ストック オプション)にも、「取得条項つき」という、変な条項をつけることを認 めています。この「取得条項つき」にしておくと、会社側(株主ではない) の都合によって、新株予約権を買い上げる(権利行使をさせて、新株予約権を 会社が回収する)ことができますので、株主にうむ をいわせず、権利行使を強制できます。取得条項がついた新株予約権では、 会社側にチケットを引き取る権利がありますから、一方的にチケットを回 収し、代わりに新株を渡すことができるのです。これは、権利行使をきらう株主 がいても(Mさんに味方する株主が権利行使をしないとしても)、無理やりにでもチケットと 株式の交換をすすめてしまうことを意味します。

  しかし、敵対的買収者のMさんのチケットまで、無理やりに株式に変えてし まうと、乗っ取り対策にはなりません。そこで、取得条項の発動の対象か らMさんだけを除外し、Mさん以外の株主だけを対象にして、取得条項を適用 します。これがポイゾン・ピルにおける第2の細工です。

(4)ポイゾン・ピルの仕掛け

  いま、Xデーに、突如として20%の株式がMさんに買占められていることがわか り、そのMさんが敵対的買収者であることがまちがいないと確認できたとします。 会社ではただちに取得条項つき新株予約権を発行し、その時点の既存の株主 の全員に対して、それを無償で交付します。この新株予約権は、権利行使す れば、現在の保有株数と同数の株式と交換するという内容のものです。ただ、 この取得条項つき新株予約権には、次の2つの特別な条項が付加されています。

1.敵対的買収者における新株予約権の権利行使を認めない。

2.敵対的買収者以外の者についてのみ取得条項が適用される。

(5)ポイゾン・ピルの薬効

  このポイゾン・ピルが発動されたあとでは、Mさんにおいては株数が以前と同数なのに、 Mさん以外の株主では株数は2倍に増加しており、Mさんの議決権割合は、20% から11%(=20/(100 + 80))に低下しています。Mさん以外においては、株数は2倍 に増えていても、株式の値打ちは2分の1に(正確には5/9に)下がっています ので、株主の財産に変化なしです。このように株式が水割りにされ、内容が薄 くなることを専門用語では希薄化(delution)と呼んでいます。

  問題はこのポイゾン・ピルの「薬効」です。たしかにMさんの持株比率はポイ ゾン・ピルで低下しますが、はたしてMさんが落胆して、これで敵対的買収を あきらめるかどうかです。Mさんがさらに大口の資金をかき集め、再度立ち 向かってくる可能性もありますが、そうなると買収劇は次のステージに移りま す。

  なお、ポイゾン・ピルは株主公平の原則に反するおそれがありますが、アメリ カでは、デラウェア州法最高裁により1985年に合法性が認められています。わ が国ではまだ合法性が保証されていませんので、将来には争いとなる可能性が ないとはいえません。

(淀屋橋サテライトでの講義のあと、院生と訪れた中ノ島のローズガーデンにて 2006.05.27撮影)

◆派遣労働制と請負労働制◆

  労働者派遣法の2004年に改正され、製造業の工場では、派遣労働者のウェートが ますます高くなってきているという。人材派遣会社が農村などから労働者をかき集 め、都市のメーカーに3ヶ月ー1年間派遣する(現在では最高1年ですが、2007年から 最高3年に延長される)。雇用関係は人材派遣会社と派遣労働者と の間で組まれる(したがって賃金の支払元は派遣会社となる)が、作業現場は派遣先の工場で あり、作業の指揮をするのは派遣先の会社のマネジャーということになります。派遣 労働者には、農閑期に自動車会社、IT機器製造会社などで働く地方 の若者が多いというから、「出稼ぎ」の現代版といえようか。派遣先では3ー6日 のトレーニングを受けて、すぐに生産ラインに回される。宿泊施設として寮が準 備されていて、それもアメニティに配慮されているから、あまり悲惨な境遇では なそそう。

  この派遣労働制とよく似ているのものに、「請負労働制」があります。請負労働 制では、メーカーが業務請負会社に生産ラインの一部を丸投げします。業務請負会 社は、3ヶ月ー1年間の短期間、農村などから労働者を雇用して、請負先の工場で 就労してもらう。請負労働者への賃金は、もちろん雇い主の請負会社が支払います。派遣労働制 と違うのは、指揮・命令の権限が請負会社にあって、就労先の工場にはこの権限 がないということだけです。

  工場には派遣労働者、請負労働者のほかに、工場に直接に雇われているパートタ イム労働者がいます。これらの労働者はしずれも非正規社員であり、生産量の繁簡 を調整する臨時労働者です。工場が忙しくなると、これらの非正規社員が入り乱れ て、工場の中を走り回ることになりますから、ややこしくなります。みな同じ制服 を着ていることが多いのです。

  正規社員を削減する傾向がつづいていますので、これからも非正規社員は増加して いくものと思われます。この非正規社員に外国人労働者が加わるのはまちがいない ことですから、日本の労働環境もますます多極化していくことになります。

◆この夏の楽しみ◆

  大学はもうすぐ夏休みに入ります。7月下旬には、ことしもアメリカのシリコンバレ ー(San Franciscoの近くのSan Jose)に出張する予定ですが、できればSalinas まで足を伸ばし、2−3日遊びたいと考えています。Salinasはノーベル文学賞を 受けたジョン・スタインベック(John Stainbeck)のホームタウンで、彼の少年 時代には、牧場と森林しかなかった盆地です。いまは中都市に変わってい るとしても、東の山脈と西の山脈に挟まれた渓谷には、豊かな草原が広がってい たと思われます。この眼で、その光景ぜひたかしめてみたいという思いです。

  もうひとつの楽しみも、旅行です。9月にベトナムの首都、ホーチミン市の訪問を 計画しています。しかし、この方は、まだチケットも手に入れておらず、準備 はこれからです。この旅行が実現したら、次回の更新時には、いろいろな写真 をおみせできるでしょう。

 この夏休みには、このホーム ページを大掃除し、いくつかのコーナーを刷新しようと考えています。次回の 更新予定は10月ですが、このため、それまでに画面が再々変わることになるかも しれません。

 梅雨が明けると、いよいよ夏 です。ご健康にご留意のうえ、素晴らしい夏の季節をお楽しみください。 ごきげんよう、さようなら。


2006.07.01

OBENET

代表 岡部 孝好

okabe@obenet.jp