
A Message from Webmaster
to New Version(January 1st, 2005)
2005年01月版へのメッセージ
OBE Accounting Research Lab
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[1995年10月 ラボ開設のご挨拶][
Webmasterからのメッセージのバックナンバー]
◆賀春◆
あけまして、おめでとう、ございます。
本年も、よろしく、お願いします。
◆ラボ10周年とサイトの引越し◆
この「財務会計ラボ」が立ち上がったのは、阪神大震災の1995年のことです。話題のWindows95が初めて売り出され、インターネットが拡がりはじめたころです。瓦礫の街となった神戸に通いながらのハイパーテキストの勉強でしたから、ホームページの開設を果たしたときの感動はかなりのものでした。当時、神戸大学でホームページをもっていたのは情報処理センターと図書館くらいで、ずいぶんとめずらしがられたものです。
それから歳月がたって、ことしは10周年です。
このサイトのWWWサーバーは大学の研究室にあって、NEC製Express Server 5800 が2世代にわたって頑張ってくれましたが、10年の間に、大きな事故に2回遭いました。1回目は落雷で、ハードディスクが全壊し、プラットフォームそのものが潰れました。もう1回はハッカーの攻撃で、バックドアからの不審者の侵入を放置していたら、いたずらの限りをつくしたうえで、最後にはフォーマットをかけられた状態になりました。いずれも甚大な被害でしたが、気分を入れ替え、ともかく修復しました。そのほか、こまかいトラブルが無数にありましたが、それはその筋の本をみれば、簡単に片づくことばかりでした。
この「財務会計ラボ」には、あちこちからリンクを張っていただいております。その中には、国会図書館、公立図書館、会計研究団体などが含まれています。またYahoo Japanでは、「会計学」で検索をかけると、眼鏡マーク(推奨マーク)つきで、真っ先にこのサイトが出てきます。国内だけでなく、海外でも、このサイトをブックマークに入れていただいている方は、多数おられます。ほんとうに、ありがたいことです。

しかし、将来のことも考え、このサイトは http://www.obenet.jp/ へ移転します。
昨年からウイルスの攻撃が急増し、神戸大学でもセキュリティ対策を強化しています。いろいろな規則ができて、サーバー管理者の責任が重くなってきています。このため、学内でWWWサーバーを24時間回しっぱなしにしておくのは、むずかしくなってきています。いくらこまめに手を入れるといっても、研究室はほとんどいつも無人ですし、緊急の対応など、できるわけないのです。そこで、このサイトの拠点を学外のレンタル・サーバーに移転することにしました。新拠点はファーストサーバ(株)−クボタの子会社−がもつLINUXマシンで、それが専門ですから、セキュリティは万全です。ただ、音は出せませんので、無音
になります。
「財務会計ラボ」を運営するのは「OBENET」に変わります。OBENETというドメイン名は、KOBEとかOKABEをもじったところがないわけではありませんが、正式にはOcean Business Empowerment Network の頭文字を取ったもので、ビジネス活動の研究と支援の学術団体(代表岡部孝好)です。近い将来、NPOか株式会社として法人化されることが予定されています。
「財務会計ラボ」は、これからも活動をつづけていきます。よろしくご支援をお願いします。

◆沸き立つ上海◆
11月の中旬、関空からわずか2時間半で、沸き立つ経済の上海へ。この上海の市街はすさまじい。超高層ビルが林立し、その谷間を自転車、リヤカー、単車、乗用車の洪水が流れ、携帯にわめき散らしながらおびただしい数の人間が早足に歩いている。繁忙きわまりない上海の街は、何もかも溢れかえっている感じで、その活況にまず圧倒されてしまう。あちこちに工事中のビルがあり、工事用大型車両が走り回る。これはもう、間違いなくバブルである。

上海の味といえば、いうまでもなく上海蟹。上海蟹は淡水のもので、上流の湖で捕れるらしい。9月はメス蟹の、10月はオス蟹の旬で、いまが1年で一番美味いシーズンという。たしかに美味しい。何度食べても、たしかに美味しい。蟹ミソ豆腐もいい。これを味わえただけでも、上海に来たかいがあったというものだろう。
何が上海料理なのかいまだに不明のままであるが、本格的な中華料理のほかに、天心も十分に味わった。これもなかなかのもので、天心を間食にしている中国人は、ずいぶんと贅沢をしていると、感心させられてしまう。

上海の市街を蛇行する河が黄浦江(たぶんは長江の支流)で、その東側を浦東(ほとう)地区という。浦東地区は海岸に面した広大な平地で、以前は田んぼだったらしい。その浦東地区では、いま急ピッチで開発がすすめられていて、あちこちで超高層ビルが建設されている。浦東の経済特区にはいくつもの工場団地があって、世界の生産拠点に変貌しつつある。この特区に工場をもつ日本企業の広告塔も、何本かみた。
上海の観光の目玉は、何といっても豫園であろう。紅色の楼閣の中に商店群がひしめき、食品、宝石、衣類など忙しく商っている。どの店も盛況で、商業においては集積にいかに大切かを、いまさら思い知らされた感じがする。なお、この豫園の周辺には卸売市場もあって、狭い通りを巨大な荷物を積んだ自転車、リヤカーが行き交っていた。
上海で忘れてならないのは、旧市街の存在である。豫園の周辺などには、スラム化した旧市街が残っているが、その街路の光景はとてもことばに表せたものではない。洗濯物が電線に翻っているし、どぶに頭を差し出したご婦人は右手でやかんの湯を注ぎながらシャンプーをしている。道端の狭いテーブルを囲んでいる老人たちは、昼間から賭け事に興じている。電気もあり、上下水もあり、ガスもあるもようであったが、その生活ぶりは半世紀以上の前の生活にみえた。
◆メリーゴーラウンド◆
インターネットのメディア・リンク社が粉飾決算(有価証券報告書の虚偽記載)の容疑で大阪地検特捜部に摘発されたと報道されているが、その手口は「メリーゴーラウンド」。これはアメリカでも、ネットバブル期に頻発した手口である。
A社がB社に商品を販売すると、販売金額がA社の売上高になる。同じ商品をB社がC社に販売すると、販売金額がB社の売上高になる。最後に、C社がA社に同じ商品を販売すると、販売金額がC社の売上高になる。商品をA社からB社へ、B社からC社へ、C社からA社へ「タライマワシ」にして、A、B、Cの3社において売上高を計上するこの方式がメリーゴーラウンドである。
メリーゴーラウンドでは、商品は元に戻って、A社の倉庫に帰っている。だから、A社からみると、返品みたいなものである。しかし、タライマワシを成り立たせるには、B社とC社の協力が不可欠であるし、B社とC社の協力をうるには、両社にマージンを落とさなければならない。このマージンを負担するのはA社であるから、A社では大きな代償を支払って、売上高を増やしたことになる。刑事罰を別にして、これが粉飾決算という裁量行動のコストになる。

メディア・リンク社の事件では、実際には商品は動いておらず、伝票だけが回っている。この点で、完璧な架空取引である。しかし、商品が3社の間で輸送されていても、会計上ではなおも重大な問題が残されている。最終的にA社に商品が戻ってきたときに、この商品は「仕入れ」とされており、しかもその仕入価額は最初の販売価額よりはるかに高くなっている。B社とC社に支払ったマージンの分だけ、仕入価額が、したがって在庫(棚卸資産)の価額が膨らんでいる。これは資産の過大計上にあたる。
単純な粉飾決算では、A社がまず自分で倉庫を借りて、そこへ商品を運び込む。そして、商品が販売されたとして、架空の顧客に向けて伝票を切って、売上高を計上する。次に、翌期になってから、倉庫の商品をA社に持ち帰り、架空の顧客からの返品があったという会計処理を行う。この返品は売上高の訂正であるから、2期に跨るとはいえ、売上高が正しい金額に修正される。しかし、メリーゴーラウンドでは、売上高は永久に修正されない。その代わりに仕入高と在庫が操作されるが、その金額も正しい金額ではないし、将来に訂正される見込みもない。メリーゴーラウンドが、きわめて悪質な手口だといわれる理由はここにある。
◆興銀事件に最高裁の判決◆
2004年12月24日、興銀事件に対して最高裁の判決が下された。原告の興銀の主張を認め、国に所得税1500億円余り(地方税、利子の合計で3,200億円という)を還付せよという判決であった。
興銀事件は、1995年、阪神大震災の年に発生した。当時ジューセン(住専)の経営破綻が大騒ぎになっていて、興銀はジューセンの破綻処理について、母体行として責任を追及されていた。結局のところ、ジューセンは8月31日に解体され、解散させられたが、それよりはるか前の3月29日に、興銀がジューセンに対して3,700億にものぼる債権放棄を行ったことが、事件の発端である。興銀は3月31日が決算日であるが、この決算期は黒字であったから法人税を納めなければならない。しかし、翌期は赤字決算が予想されており、納税義務は発生しない見込みであった。
この状況においては、ジューセンが破綻した8月31日をもって「貸倒れ」が発生したとすれば、その期は赤字決算だから、興銀では税コストが下がらない。しかし、3月31日までに「貸倒れ」が発生したとすれば、その期は黒字決算であるから、貸倒損失を損金として控除でき、税金が浮く。このシナリオのもとで、興銀は3月29日の時点で、あえて債権放棄を行い、この債権放棄損失を貸倒損失として国税庁に申告した。
国税庁では、興銀において貸倒損失が発生したのはジューセンが破綻した翌期であって、債権放棄時点ではないとして、貸倒損失を否認し、法人税の納付を求めた。興銀では不服を申し立て、税務紛争となった。
1審の東京地裁の判決は、興銀の主張を認めたが、2審の東京高裁では判決が逆転し、国税庁の主張が通った。そして、今回、最高裁の判決において、またも結論が逆転して、興銀の主張が認められた。わたしがこの事件に関与しはじめたのは地裁の判決の後からのことであるが、何とも凄まじい税務紛争で、忘れられない大事件となった。
◆会計研究学会関西部会が大阪府大で◆
12月4日(土)、会計研究学会関西部会の大会が大阪府大(準備委員長 山本浩二氏)で開催された。大阪府大は堺の方にあって、御堂筋線の南の端。わたしの住居は大阪の北の端であるから、7時起床の大移動となった。しかし、大会は順調で、議論の大いに盛り上がったと思う。なお、統一論題は「事業再生と新しい会計の役割」であり、座長は岡部孝好(神戸大学)、スピーカーは井上達男(関西学院大学)、伊豫田隆俊(甲南大学)、杉本徳栄(龍谷大学)の各氏であった。この統一論題の報告は、雑誌「会計」の4月号に掲載される予定である。
◆次回の更新◆
次回の更新は3月の予定です。これからが寒さの本番です。ご健康にご留意のうえ、よい冬の日々をお過ごしください。
2005.01.01
OBE Accounting Research Lab
代表 岡部 孝好
Graduate School of Business Administration
okabe@kobe-u.ac.jp
okabe@obenet.ne.jp

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