A Message from Webmaster

 to New Version(August 19, 2002)




 2002年8月版へのメッセージ



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   1995年10月 ラボ開設のご挨拶  ウエブマスターのプロフィール(Profile Information) [in English]

   Webmasterからのメッセージのバックナンバー[Backnumber]


◆六甲台に、ようやく秋風◆

   ことしは、体温を超える真夏日がつづきましたが、ご機嫌いかがでしょうか。猛暑も峠 を越したみたいで、六甲台にも、ようやく秋風が感じられるようになりました。

 本年春より大学のカレンダーが変更され、前期試験が7月末まで行われました。その代 わり9月いっぱいまで夏休みということになりますが、お盆をすぎても、まだ答案の採点 が終わっていない状況で、気分的には、夏休みを失ってしまった感じです。担当のMBAス クールでは、夏休中に、1年生がミニプロ発表会とゼミ選考会、2年生が修士論文の提出と 審査が行われますので、実際のところ、とてもお休みの雰囲気にはなれません。

 真夏のテニスコートは照り返しが格別です。それでも、お盆の週を除いて、毎週、テニ スコートで汗を搾り出しては、夜にビールで渇きを癒してきました。原稿の仕上がりはは かばかしくありませんでしたが、何とか元気にやっております。

◆工場見学――ダイキン工業草津製作所を訪問◆

 2002年の夏の盛り、8月7日10時、岡部ゼミ3回生10名とともに、ダイキン工業草津 製作所を訪問。この工場では、ルームエアコンなど、主力の空調機器を製造していますが、 研究開発などのチームなども活躍していて、大きな生産拠点となっています。琵琶湖周辺 の立地ということで、環境への負荷には格別の配慮がなされているようです。

 草津製作所は典型的な組み立て工場で、トヨタのカンバン方式を参考にするダイキン独 自の生産システム(DTS)が稼動しています。この生産システムで顧客のニーズに即応す る一方で、サプライチェーンと連動し、手持ち在庫を大幅に圧縮するのに成功している。 顧客からの受注から据付にいたるリードタイムは3日というから、何とも忙しいかぎりで す。顧客は待ちを嫌うから、リードタイムが長くなると、顧客が逃げて、大きな機会コス トが発生するかららしい。製品在庫を持たずに、即納品というのは、そもそも対立する2 つのターゲットを追いかけることであり、現場には緊張を生んでいる。

 製造プロセスはいわゆる「個流し」によっているため、コンベアの上を流れる製品の種 類はまちまち。混流する多品種の製品に、誤りなく、また手早く部品を取り付けてゆくの は簡単なことではなさそうである。しかし、コンピュータが単品ごとにプロセスを管理し ているから、部品の取付けも検査も、スクリーンの指示によって円滑にすすめられており、 現場によどみはない。このスムースな流れには、日本的生産システムの「美」を感じる。 こうした通常のライン生産のほかに、「セル生産システム」もあったが、ここでは1人の多 能労働者が1台の製品を手作りで仕上げている。この技も、日本式の「美」だろう。

 クリスマス・ケーキの需要は季節によって大きく変動するが、エアコンにも似たところ があって、季節変動が激しく、夏場に需要のピークを迎える。この工場に特徴的なのは、 需要の季節変動にフレキシブルな対応をしていることで、労務コストの節約を狙って、き わめてユニークな労務政策を採用している。フルタイムの従業員にも変形労働時間制を適 用し、通年の労働時間は固定する一方で、閑散期には労働時間を短縮し、その短縮分を繁 忙期の時間延長に充てている。そのほか、支援従業員(季節労働者)を積極的に活用して いるのもこの工場の特徴で、支援従業員の雇用は400人にものぼるため、ピーク時の従業 員はボトムの2.5倍に増えるという。リクルート、トレーニング、宿舎の世話などを考える と、さぞかし大変だろうと思う。しかし、問題は労働コストの節約だ。

 学生にとっては初めての現場で、かなり強い刺激になったことはたしかである。国内生 産でいかに労務コストを下げるか、国内生産を続けるかそれとも工場を中国とか東南アジ アに出すか、いかに在庫を切り詰めるか、いかにサプライチェーンをマネージするか、い かに勤労のインセンティブを引き出すかなどなど、これまで考えたこともない問題に出会 って、多くのヒントがえられたはずである。本の読み方、新聞の読み方、テレビの見方が 変わってくれるといいのだが。

 最後に、超繁忙期にもかかわらず、ご歓迎をいただいたダイキン工業の関係者の皆様に は厚くお礼を申し上げます。その夜、湖西の宿で、深夜まで学生たちと語りましたが、今 日の工場見学はタメになったという話が何度もでました。本当に勉強になりました。あり がとうございました。

◆岡部ゼミ3回生、2002年の夏合宿◆

 本年4月からの岡部ゼミ3回生は総勢11名。男7名、女4名。うち10名が夏合宿に参 加することになり、8月7日にJR新快速で、琵琶湖へ。

 午前中は、ダイキン工業草津製作所を訪問して、工場見学。午後からは山科に戻って、 湖西線で近江高嶋のビーチサイドへ。「憩いの里湖西」(滋賀県高島郡高島町勝野)で合宿。 夕方には猛暑の中、2時間ほどテニスで遊んで、それから風呂とビール。

 翌日は、宿舎近くのビーチで学生たちは水泳。楽しい1泊2日の合宿で、最高でした。 幹事の高橋さん、ご苦労さんでした。

◆六甲台学舎は大改修◆

 赤松城跡の六甲台キャンパスには、豊かな緑の中に、高雅な学舎が建ち並んでいますが、 いま建設ラッシュで、大改修がすすめられています。いま正門西では、7階建ての第一総 合研究棟(アカデミヤ館)が建築中ですし、来年度には、図書館西に、10階建ての第二総 合研究棟が建設されます。アカデミヤ館の1−3階には生協が移り、生協の建物は改修の 後、事務棟となります。現在の事務スペースは、教室、学生控室などに転用される予定で す。

 さらに来年度から3ヵ年計画で、旧建物の大改修が行われます。まず第二学舎と研究所 新館を改修した後、講堂、本館を改修し、さらに兼松、図書館の改修にすすむ予定です。

 3年先には学舎は一新され、六甲台はすばらしいキャンパスに変身するのはまちがいの ないことです。しかし、その間、騒音、不便などに耐えなければならないことになります。 改修期間中の教室、研究室をどうするのかなど、あたまの痛い問題ばかりに、追いまわさ れています。

◆アメリカの会計不信◆

 エンロン、ワールドコムなど、アメリカではたてつづけに会計不正が露見し、これが企 業破綻につながってしまったのは、会計の歴史にとって大事件です。会計事務所のアーサ ー・アンダーセンがこの不正に関与したとして(特に監査の証拠書類をシュレッダーにか けて、司法調査を妨害したとして)、SECにより「お取り潰し」の処分を受けたのもショッ キングな結末です。この会計不正を発端にして、負の連鎖がはじまっており、世界的株価 下落、デフレの進行、企業倒産などが巻き起こっています。Eコマースを中心とするアメリ カの持続的な繁栄は、これを契機に後退に向かっているようです。

 この関連において、一躍脚光を浴びることになったことばが「Earnings Management」 です。これはメディアでは「収入操作」などと訳されていますが、会計学の学術用語とし ては、「利益数値制御」、「利益調整」、「利益マネージメント」などの訳語があてられている もので、けっして新しい言葉ではありません。その意味は、経営者が外部に公表する利益 数値を意図的に歪めることであり、日本でもよくみられる「決算操作」、「帳簿操作」が最 も近い響きをもっているといえそうです。

 この会計不正の背後にはストックオプションの乱発があり、経営者が右肩上がりの株価 上昇に、あまりにも強く動機づけられているという指摘があります。損失の隠蔽によって 市場にはあたかも利益数値が増加しているかのように装い、この虚偽の会計数値によって 投資家の買いを誘い、高株価を支えてきたというのです。アメリカでは次期の予想利益数 値は証券アナリストがだしますが、株価の引き上げのために、このアナリストの予測数値 を高めようとしただけでなく、その下方修正(これは株価を下げる)を避けるように、無 理な決算操作をつづけてきたのが事実のようです。

 アメリカでは市場が万能で、何もかも市場の働きに任せるのが基本的なスタンスでした。 マーケット・ドリブンということから、強い市場の規律を受けて、株価最大化に向けて、 会社が正しく統御されているという見方が支配的でした。しかし、この市場万能主義には 重大な欠陥があることもはっきりしてきましたので、新しい会社ガバナンスの仕組みが模 索されはじめています。何もかも市場に任せてしまうのは、やはり危険だとする見方が広 がってきているのです。

◆収益操作◆

 アメリカのEコマース企業では、収益の嵩上げ操作が多く、これが会計不信を招いてい るといわれています。もともとベンチャーには利益などがないわけだから、投資家には株 式を評価しようにも、そのための財務データがみあたりません。そこで、売上高の成長率 が高い会社なら有望だろうという単純な考えから、高い売上成長率を示すドットコム会社 を高く評価する傾向が広がりました。ベンチャー向けの資本市場では、損益計算書の最後 に数字――ボトムライン――をみて判断する代わりに、その最初の数字――トップライン ――をみて判断し、1株あたりの売上高と株価を対比する比率――乗数(multiple)――を投 資尺度にするようになってきたのです。

 投資家が売上の成長率を買うとすれば、ドットコム会社の経営者は、利益よりも、売上 の引き上げに強く動機づけられます。新株を売り出すには高株価が有利ですし、高株価に するには売上を増やせばよいのです。高株価になれば、ストックオプションの利得も経営 者の懐に入ります。こうして、ドットコム会社の経営者は収益操作(revenue management) に駆り立てられたのです。

 収益操作の手口は多数ありますが、代表的なのが”grossed-up”と”barter”で す。”grossed-up”というのは、売上高の処理において、純額法によるべきところを総額法に よって処理するもので、売上高を劇的に嵩上げする効果があります。たとえば、インター ネットで航空チケットを販売する会社が、100ドルのチケットを販売して2ドルの手数料を 稼いだ場合、純額法によると、販売手数料の2ドルだけが売上に立ちますが、総額法によ ると、100ドルの売上高と98ドルの売上原価が計上されます。純利益への影響は同じです が、総額法によると、2ドルの売上高がなんと100ドルになるのです。

 他方、”barter”というのは、ホームページのバナー広告を他のドットコム会社と相互に出 しあって、両方の会社で売上を計上する方法で、業界ではしばしば「アライアンス戦略」 とささやかれています。これは広告サービスの交換取引ですから、会計ルールによると、 交換したサービスの価値を公正価値で評価し、双方のドットコム会社において売上高に計 上することになり、会計処理に問題はなさそうです。しかし、バナー広告のバーター取引 そのものに虚構の疑いがあり、キャッシュフローをともなっていません。それぞれがタダ で仲間のバナー広告を出し合っているだけであり、代金の決済などしていないのです。

 SECはこのカラクリを指摘され、ガイドライン(Staff Accounting Bulletin Number 101,December 1999)を出しましたが、有効な対抗策はまだみつかっていないようで す。”grossed-up”の判定では、商品を仕入れ、リスクを取って再販売しているのかどうか(所 有権が移転しているか)がカギになりますが、その判別の規準が微妙です。ドットコム会 社の仕事がブロカー業務なのか、それとも小売業務なのかははっきりしないのです。また バーター取引では、代金の決済が手掛かりになりますが、これも定期的に同額の現金を交 換するだけで、簡単に決済の形が創れます。

 ワールドコムの会計疑惑はまだ解明されていませんが、新聞報道をみるかがり、”barter” を使った疑いが濃厚です。同業者と結託して、インターネットの通信回線を相互に貸し合 えば、バーター取引となって、双方の会社で売上高が膨らみます。キャッシュフローに結 びつかないこのバーター取引が巨額で、売上の大きな部分を占めていたことが疑われてい るのです。

 なお、専門的になりますが、次の研究はこの議論に有益です。 Davis, Angela K., ”The Value Relevance of Revenue for Internet Firms: Does Reporting Grossed-up or barter Revenue Make a Difference,” Journal of Accounting Research,Vol.40, No.2 (May 2002), pp.445-477.

◆金庫株の解禁◆

 会社は株式を発行して資金を調達しますが、その際には投資者が資金を会社に支払い、 株券が投資者に渡されます。資金を出資した投資者が株主であり、株主は株券を所有して います。この株主から会社が自社の株式を買い戻し、会社内の金庫に保管するのが金庫株 (treasury stock)です。金庫株は自己株式ともいわれます。

 会社が自社の株式を買い取って保有するのは、あきらかに不健全です。会社がたとえば 自社の株式を全部買い戻すと、株主不在となって、その存立の基礎を失います。そこで、 わが国の商法は、かつては自己株式の保有を厳格に禁止していて、例外的な場合を除いて、 金庫株の保有を許していませんでした。近年、この規制が部分的に緩和されていましたが、 それでも自己株式を保有する目的は狭く限定されていて、株式を消却する場合とストック オプションとして提供する場合に限られていたのです。ところが、2001年10月の商法改 正によって、自己株式の保有が全面的に自由化されることになりました。

 金庫株が解禁となったといっても、保有株数には限度があり、配当可能利益の範囲内に 限られます。しかし、その配当可能利益そのものが拡張され、過去に蓄積された法定準備 金を配当可能利益に加算することが許されます(ただし資本金の4分の1は除外する必要 がある)ので、その枠はかなり広いと考えられます。定時株主総会で決める取得予定株数 は1年間しか有効でないため、毎年、手続きを更新しなければならないものの、自己株式 は自由に市場から購入できますし、保有期間も無制限です。

 自己株式を購入する目的としては、従来と同様に、(1)株式を消却する、(2)ストッ クオプションとして供与するといった場合が考えられます。しかし、新しいルールでは金 庫株の保有目的が指定されていませんので、(3)M&Aにあたり相手側の株主に供与する、 (4)敵対的買収に対抗する、(5)株価を買い支える、といった用途にも利用できます。 いってみれば、何でもできるわけです。

 金庫株は貸借対照表の株主資本(純財産)のマイナス項目であり、金庫株が増えれば増 えるほど、株主資本は少なくなります。発行済株数の減りますので、1株あたりの利益 (EPS)も増加します。他方、市場に出回る株式数も減っていますから、需給関係は改善 されます。これらは、いずれも株価を押し上げることにつながっています。

 心配される問題の1つは、この金庫株が株価操作に使われることです。金庫株の保有が 自由ということは、自己株式を市場から購入できるだけでなく、いつでも市場に売却でき るということをも意味します。大量の自己株式の売買によって、株価が乱高下するようで あれば、新しい問題が発生することになります。

 なお、自己株式の売買損益は、会社の利益計算からは除外されており、資本剰余金とし て取り扱われます。

◆「新株予約権」とは何なのか?◆

 新株予約権というのは、2001年の商法改正で誕生した新しい日本語で、対応する英語は 不明です。旧名は「新株引受権」でしたから、名称変更というのが正しい見方です。新株 予約権というのは、「将来において指定の取引条件で新株を買い受ける権利」を意味してお り、会社側からすると、この権利保有者から請求されると、新株を、約束通りに売り渡す 義務が生じます。

 ストックオプションは、指定の期間内に、指定の価格(権利行使価格)で、指定の株数 を、買い受ける選択権であり、新株予約権の典型といえます。ただし、ストックオプショ ンで引き渡す株式は新株とはかぎらず、旧株(自己株式)のこともありますので、用語に 惑わされないようにする必要があります。

 ワラント債は、社債とストックオプションを抱き合わせたものであり、新株予約権のも う1つの例になります。ワラント債には分離型と非分離型の区別がありますが、分離型ワ ラント債は社債と新株予約権とが別々に取り扱われるのに対して、非分離型ワラント債は 両方が一体として捉えられ、「新株予約権付き社債」といわれます。

 転換社債には新株予約権が付いていますが、その保有者が新株を取得する場合には、現 金を支払わず、社債によって払込みの代わりとします。この点から、法律用語では、転換 社債は「代用払込のみを認められる新株予約権社債」ということになっています。

 新株予約権という証券の創設がもたらす重要な結果は、これら以外の場合においても、 つまり普通の場合において、新株予約権を単体として自由に発行できるようになったとい う点です。既存の株主以外の者に対しても、新株予約権を発行できる(特に有利な発行条 件でなければ取締役会の決議で発行できる)ので、将来時点に行う増資の枠組みを予め決 めておくことが可能です。

 経営再建中の西友はこの制度をさっそく利用して、アメリカのスーパーの大手、ウォル マートに大量の新株予約権を供与し、業務提携関係を結んだと報道されています。ウォル マートは、3段階にわたって、新株予約権の権利行使を行い、これによって西友の株式の 最大66%を取得する予定といわれています。

◆次回の更新◆

 次回の更新は11月になります。みなさん、ごきげんよう。さようなら。


2002.08.19

神戸大学財務会計ラボ

岡部 孝好

Graduate School of Business Administration

okabe@kobe-u.ac.jp

okabe@kobebs.ne.jp