A Message from Webmaster

 to New Version(June 20, 2013)


2013年06月版へのメッセージ


OBE Accounting Research Lab



Back Numbers [1995年10月 ラボ開設のご挨拶][ Webmasterからのメッセージのバックナンバー]


◆くろだにから相国寺への道◆

  京阪電車の神宮丸太町駅で下車して、京大病院の前の道を東山に向かって15分ほ ど歩くと金戒光明寺(こんかいこうみょうじ)の門前に辿り着く。ここはもうほとんど東山の大文 字山のふもとであり、「くろだに」という小高い丘の真っただ中である。

  門を潜って、巨大な山門(改修中)の脇を左に折れ、だらだら坂道を登ると本堂に達するが、 ここからは吉田神社の森がすぐそこに見える。この金戒光明寺が幕末に京都守護職の任にあった松 平容保(まつだいらかたもり)が拠点としていた寺院であり、1,000人を超える会津の藩 士がこの陣営に詰めて、戦いに備えて腕を磨いていた。壮大な境内から西を眺めると、 鴨川の向こうに御所の森が望めるが、容保が守護職に就いていたころには、その御所 が天子のお住まいであった。

  江戸時代、愛知県知多半島の突端に美濃高須藩があったが、容保はその高須藩の 第七男として生まれ、まもなく会津藩会津松平家の養子に迎えられた。美濃高須藩主、 松平義建は10人もの男児に恵まれたが、その中の聡明な4児が「高須四兄弟」として、後 世に名を残すことになった。尾張藩尾張徳川家の養子に迎えられた次男の慶勝、高須藩主を継 いだ五男の茂栄、桑名藩の久松松平家の養子となった八男の定敬、それに七男の容 保の4兄弟が、それぞれ助け合いながら、幕末の乱世において強いリーダーシップを発 揮したのである。とりわけ容保は沈着にものごとを判断しながら、堅実で、揺るぎな い強い姿勢を貫いた名君で、会津松平家の家臣団の信望を集めていたことで知られている。

  テレビドラマ「八重の桜」では、秋月悌二郎は脇役で目立たないが、この秋月は山本覚馬 (山本八重の兄)の親友であったばかりでなく、なかなかの戦略家でもあった。秋月はこの 金戒光明寺に張り付いて作戦を練る一方で、相国寺の横にあった薩摩屋敷に通い詰め、 薩摩と会津の「会薩同盟」を組み上げた。禁門の変で会津が長州と蛤ご門で戦った時には、 この軍事同盟が大きな役割を果たすことになったのである。

  金戒光明寺を北に出て、今出川通りを西に歩くと30分ほどで相国寺に着く。薩摩屋敷あっ たと聞く相国寺のあたりは、いまは同志社大学今出川キャンパスになっている。

この今出川 通りを相国寺向かって歩きながら考えに考えたのは、幕末のころの会津藩士の悩みの深さ である。秋月悌二郎も山本覚馬もこの道を毎日のように歩いたことであろうが、そのころはま だ明治時代に向かう道筋はまったく見えなかったはずだから、さぞかし足が重かっただろうと 思う。会津の鶴ヶ城籠城戦の後に松平容保がどういう生活を送ったのか不明であるが、悌二郎、 覚馬だけでなく、容保もまたくろだにから相国寺に至る今出川の道筋は、明治時代に世が変わ っても決して忘れなかったにちがいない。

◆ドラゴン◆

  中国人は何でも大げさにものを表現し、「白髪三千丈」などというから、中国人を 話をするときには騙されないように気をつけることにしている。しかし、万里の長城 に登った時には、中国人もまんざら嘘ばかりいうのではないと、恐れ入ってしまった。 クレーンも何もない時代に、あの巨大な城壁を人力で築いたというのだから、その構 想力、実行力はとほうもなく大きなもので、まねのできることではない。

  中国にはまた空想上の巨大動物がいて、それが天地を駆け巡る話が多い。キリン・ビ ールのキリンも、夢を食って生きのびるバクという動物も、実際には生存していない のではないでああろうか。しかし、パンダというかわいい動物が中国にいることは 20-30年前には誰も知らないことであったが、いまではでもパンダを知らない人はなく、 あちこちの動物園で日本の子どもたちに最もウケているのは、パンダである。

  ドラゴンというのも中国産の架空巨大動物であり、空を駆けるワニのような独特のしぐさ は日本でもお馴染みである。沖縄、長崎、佐賀など九州の西海岸では、祭りには必ずドラ ゴンのヌイグルミが路上や海上を暴れまわっており、神戸の南京町でも正月にはドラゴン が出てきたような記憶がある。

  ドラゴン、つまり龍は地上から天に向けて、体をくねらせながら空中をよじのぼるとされ ているが、最近になってその姿をどこかで見たような気がしてきて、何度もその記憶を 呼び覚まそうとしていた。しかし、想像上の生物のドラゴンがどこかで生きているはず はないから、夢と現実の混線だろうと、打ち捨てていた。ところが、その夢と現実とが どこで混線したのかがだんだん分かってきたのである。トルネード、つまり竜巻である。

  アメリカ大陸のハイウエーを夏にドライブした人であれば誰でも経験したことであるが、 アメリカでは大小のトルネードがたえず発生していて、それが道を横切って、農園の向 こうの方へ走り去っていく。その姿はドラゴンそっくりで、尻尾で立った黒い巨大生物 が、のたうちながら地上を荒しまくるのに似ている。そのパワーもすごいが、音もたい へんなもので、ゴーと唸りながら、破壊のかぎりを尽すのである。これこそ、中国人の いうドラゴンの化身にちがいないのだ。

◆一般財団法人における理事の責任◆

  旧来の制度においては、財団法人は公益目的で創設される特別な法人であり(民法34条)、主務官庁(普通は知事)の許可がなければ設立できないものとされていた。ところが、平成18(2006)年に制度改革が行われてからは、「一般財団法人」という名のもとに誰でも設立できる通常の法人になった。認可主義から準則主義に設立原則が変更されたために、法定の要件を揃えて登記の手続きを完了すれば、一般財団法人が設立可能になったのである。

  新法による一般財団法人の理事と理事会は法人の機関である点は以前と同じであるが、その運営面はかなり簡素化されている。しかし、理事に賦課される責任は以前に比べて格段に重くなっている。

(1) 理事の忠実義務が明記される(83条)とともに、競業及び利益相反取引が明文をもって制限されている(84条)。

(2) 理事がその任務を怠って、一般財団法人に損害を与えた時には、一般財団法人に対して損害賠償の責任を負う(111条)。

(3) 理事がその職務執行において悪意又は重大な過失により第三者に損害を与えた時は、第三者に発生した損害を賠償する責任を負う。

(4) 理事が計算書類(貸借対照表、損益計算書など)の重要事項について虚偽記載を行った場合には、第三者に対し悪意又は重大な過失により損害を与えたとみなして、損害賠償の責任を負う(117条)。

  定款で理事の「最低責任限度額」を設定したり(113条)、外部理事とは「責任限定契約」を締結したりして(115条)、理事の賠償額を抑えることは可能である。しかし、責任そのものは減免させないから、一般財団法人の理事の責任は、株式会社の取締役並みに引き上げられており、きわめて厳しいものになったといえよう。特に計算書類の虚偽記載に賠償責任を負わせたことは重要な意味をもち、これまでにとかくありがちで あった粉飾決算を防止するのに大いに寄与することが期待される。

「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」(平成十八年六月二日法律第四十八号)

「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律施行規則」(平成十九年四月二十日法務省令第二十八号)

◆シンジケート・ローンの拡大と財務制限条項の変容(再)◆

  シンジケート・ローン(syndicate loan)というのは多数の銀行が集団を形成して、1つの会社に資金を融資する大口の金融取引である。貸し手側の銀行集団はアレンジャーの幹事銀行によって統括 されており、貸付取引の交渉がアレンジャーによって一括して取りまとめられるだけでなく、貸付後の債権管理も貸付資金の回収もすべてアレンジャーの指揮の下で一元的に行われる。窓口が1本化され るために借り手にとっても貸し手にとっても取引コストが大幅に削減されるが、融資額が多数口に細分されることから貸し手のリスクが分散されという大きなメリットも生じる。

  シンジケート・ローンは規模の大きい金融取引であるから、借り手の会社側においては、借入資金は社債の償還、設備投資など、長期目的で計画されるケースが多い。貸付期間が短期になっている 場合でも、数年ごとのロール・オーバー(借り継ぎ)が予定されていて、実質的には長期の融資となっているのふつうである。このため、融資先の選別、融資後の債権管理は貸し手の銀行にとってき わめて重要な課題であり、最先端の金融ノウハウが活用される。

  社債は公開市場に向けて発行されるから、その貸付契約の内容は画一的で、ばらつきが少ない。これに対してシンジケート・ローンは非公開市場(私的市場)における貸付取引であるから、市場原理 が働くとはいえ、貸付契約の内容はまちまちとなりやすい。貸出条件は借り手の会社と貸し手の銀行集団(アレンジャーが代表する)との間の対面交渉によって決められれるから、案件ごとに契約の内容が異なっ てくるのである。

  貸出条件が案件ごとに異なってくる主因は、借り手の返済能力が会社ごとに違うからである。融資を求める借り手において、潤沢な資金が金庫に眠っているようなことはありえない。融資を受けようとするのは 資金不足があるからであり、資金が足りない借り手においてその返済能力が100%確実だということは考えられない。借り手の会社には多かれ少なかれリスク――デフォルト・リスク――が存在する。そこで、貸し 手の銀行は貸付前にこのデフォルト・リスクを正確に見積り、そのリスクの大きさを貸付条件に反映させようとする。リスクの高い借り手には高い金利を要求し、リスクの低い借り手には金利の引下げを 試みるわけである。そのほか、リスクの高い借り手には、融資の金額を抑えたり、担保の提供を求めたりしなければならない(万一の焦げ付きの場合に、融資の金額を小さくしておくと被害が少なくなるし、 担保を付けておくと担保の競売によって債権の一部を回収できる)。

  貸し手が借り手に融資した後、成行き任せにしておくと焦げ付きが発生する。そこで、貸し手は融資の後、借り手の経営を見張っておいて、借り手が目に余る経営をしている場合には経営 に口出しをするのがふつうである。借り手を見張ることはモニタリング(monitoring)といわれるし、借り手の経営への口出しは一種の経営介入であり、極端な場合には経営権の取り上げ――コントロール権 の委譲(control transfer)――となることもある。

  貸し手が借り手の経営を見張るにしても、貸し手が借り手の経営に口出しをするにしても、借り手の経営が揺らぎだしてから慌てて手を着けるようでは、間に合わない。そこで一般には貸付契約を締結する時に、 これらの段取りも契約条項に書き込んでおいて、将来に争いが生じないように事前に対策を講じておく。定期的に会計報告をするように借り手に求めるだけでなく、会計数値を一定の制限値より悪くしないといっ た誓約事項を書き抜き、サインと印鑑によってその義務の履行を確約させるのである。借り手の行動を縛るこの誓約文書を財務制限条項(covenant)と呼んでいる。

  シンジケート・ローンではアレンジャーが財務制限条項をデザインし、融資後にその遵守状況を監視するが、背後には口うるさいシンジケート団の銀行群が控えているのだから、財務制限条項のデザインも遵守 状況の監視も手の込んだものになりがちである。知恵を絞りに絞って契約内容に工夫が凝らされるし、時代の変化に即応して改良が加えられる。特に最近では、変化が激しい 。

  財務制限条項にはいろいろなタイプのものがあるので、実際には多数のものを組み合わせて、「財務制限条項パッケージ」(covenant packeage)として約定される。この財務制限条項パッケージを構成する 個々の財務制限条項は、そのタイプによって次のように分類されるのがふつうである。

借り手の行動に対する束縛の仕方による分類

   肯定的財務制限条項(affirmative covenant):借り手に対して「ああしてほしい」、「こうしてほしい」と、特定行動に選択を積極的に指示する条項をいう。

   否定的財務制限条項(negative covenant):借り手に対して「ああしないでほしい」、「こうしないでほしい」と、特定行動の選択を消極的に抑止する条項をいう。

使用する会計数値の違いによる分類

   資本的財務制限条項(capital covenat):貸借対照表の数値にもとづいて、資本の源泉と使途について制約を設ける条項をいう。

   業績水準財務制限条項(performance covenant):損益計算書の数値にもとづいて、一定水準以上の業績の達成を求める条項をいう。

  これらのいろいろのタイプの財務制限条項の中で、最近になって顕著に増加してきているのが業績水準財務制限条項だといわれている。会計利益(利益率)によって達成目標水準を定めておき、 それを下回ることがないように、借り手の会社の経営者を鼓舞するのである。この傾向は、貸付取引において、借り手の業績に連動させて金利を変動させる契約方式――業績連動型貸付取引(performace pricing)――の興隆と軌を一にするものであり、注目に値することといえよう。

  最近におけるもうひとつの重要な変化は、業績水準財務制限条項の使い方である。従来においては業績水準財務制限条項は、資本的財務制限条項と同様に、一定水準の会計数値を基準値に指定 し、それを上回ったり下回ったりすることのないように、財務制限条項で縛り付けるだけというのが主流であった。そして、この制限条項の縛りに違反すると、すぐに再交渉(renigotiation)のステップにす すみ、あたかも経営破綻が生じたかのように、債務免除などの再建策を協議することになっていたのである。ところが最近では、財務制限条項へ抵触した場合の処理に、微妙な変化が観察されるという。 業績水準財務制限条項を締結している場合において、もし条項違反が発生するすると、その条項違反の内容に即応して事前に定めた貸し手の対応策が発動される。その場合の貸し手の対応策という のはそのほとんどが借り手の経営に介入することを意味するから、コントロール権の委譲(control transfer)になるというのである。この点で、業績水準財務制限条項はコントロール権の委譲に結び付けら れて運用されており、業績水準財務制限条項はコントロール権の委譲の「仕掛け縄」(strip wire)になっていると指摘されている。

《参考文献》

Christensen, Hans B., and Valei V. Nikolaev,"Capital Versus Performance Covenants in Debt Contracts," Journal of Accounting Research, Vol.50 No.1 (March 2012), pp.75-116.

◆アメリカ会計学会(AAA)年次大会の将来の開催予定(再)◆

  アメリカ会計学会(AAA)では、将来の年次大会の開催日程と開催地を公表しています。向こう4年間の 開催予定は、次のように発表されています。

□ August 3-7,2013 Anaheim, California

□ August 2-6,2014 Atlanta, Georgia

□ August 8-12,2015 Chicago, Illinois

◆次回の更新◆

  今年の夏は暑さが格別に厳しくなりそうですが、お盆を越せば、涼風も吹くのではないでしょうか。みなさん、お元 気にて夏の日を楽しくお過ごしください。次回の更新は花の9月を予定しています。ごきげんよう、さようなら。


2013.06.20

OBENET

代表 岡部 孝好