A Message from Webmaster to New Version(October 1st, 2000)

2000年10月版へのメッセージ



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   1995年10月 ラボ開設のご挨拶  ウエブマスターのプロフィール(Profile Information) [in English]

   Webmasterからのメッセージ[Backnumber]


◆晴れの5周年◆

 「神戸大学財務会計ラボ」は、この10月に、晴れの5周年を迎えることになりました。みなさまの暖かいご支援のおかげです。ありがとうございます。

 5年前の1995年1月17日には、神戸はあの大震災に襲われ、それこそ天と地がひっくりかえる思いをいたしました。そのときのショックはなかなか癒えず、4月に新学期がはじまっても、5月の連休をすぎても、虚脱感にとりつかれたままで、なにをする気力も湧いてこない状態でした。そのころ、震災時のままオフィスの隅にころがっていたパソコンを引き起こし、てすさびにはじめたのがインターネットです。まだインターネットがめずらしいころで、ホームページなど、しろうとが作れるものとは考えられていなかった時代です。ともかく、その夏休みを頑張りぬいた結果、9月末には1枚のフロッピーの中に、ホームページらしきものが完成していました。それが、この「神戸大学財務会計ラボ」で、1995年10月にスタートしました。

 最初に「神戸大学財務会計ラボ」を立ち上げた日には、ほんとうにインターネットに乗っているのかどうかが心配で、いちもくさんに自宅に飛んで帰ったのを覚えています。自宅のパソコンに自分のホームページが現れたときの感動は、とても忘れられるものではありません。そのときから、はやくも5年が経過したことになります。  昨年よりこの「神戸大学財務会計ラボ」へのアクセスが急増し、毎月2,500件以上ものご来訪をいただいております。国内だけでなく、海外のサイトにおいてもリンクを張っていただいていますし、秀逸サイトを紹介するいくつかの市販のCD-ROMにもこのページが収録されています。研究者、学生だけでなく、ビジネス(ウー)マンからの励ましのeメールもたすう舞い込みます。ありがたいことと、感謝しています。

 インターネットの世界は5年前とはさまがわりになり、特異な存在であったホームページがいまでは生活のなかに溶け込んでいます。インターネットなしには、いまや知的生活を維持することはむつかしくなっています。激しく変化するインターネットの世界ですが、これからも勉強を怠ることなく、キャッチアップしていきたいと思います。今後も、よろしくお願いします。

◆ビジネスモデルとしての富山の置き薬◆

 会計の専門用語に「消化仕入れ」とか「売上仕入れ」ということばありません。しかし、デパートなどではこの種の用語がよく使われていて、このことばを知らないと、ビジネスができないほどです。最近でも、そごうの経営破綻のときには、「消化仕入れ」という大きな活字が新聞紙上に踊っていました。しかし、会計を専攻する研究者でも、この用語のほんとうの意味をお知りの方は少ないと思われます。

「消化仕入れ」というのは、要するに、商品を調達し、売り場に並べていても、会計上の仕入処理をせずにおいて、「預かり」の形にしておくというものです。仕入処理をしていないから、売り場に商品があっても、在庫はない(仕入先の在庫のままになっている)ということになります。その商品が顧客に売れたとき、デパートでは急遽、仕入れの伝票を起こし、これと同時に売上を立てます。仕入れと売上が同時に会計帳簿に記入される点に特徴があるのです。

 この変則的な会計処理によると、デパートでは在庫をもたないことになり、「無在庫経営」が達成されます。在庫をもたないとすれば、売れ残りの損失が発生するおそれはないし、盗難、風水害などによる滅失も、品傷みも発生することはありません。流行遅れによる陳腐化もなければ、価格下落による評価損も出ないということになります。リスクはすべて免除され、デパートでは、リスク・フリーの気楽な商売ができます。

 この「消化仕入れ」は受託販売契約の一種ではないかというのが、わたしがこれまで下していた解釈です。しかし、よく考えてみると、受託販売とは違う側面もあって、うまく説明がつかないのです。そのよい例がメーカーにおける「消化仕入れ」であり、この場合には、メーカーが資材を工程に投入した時点において、「消化した」ものとみなされています。資材の在庫がない点は同じですが、メーカーでは仕入れと同時に販売しているわけではないので、この場合には受託販売とはいえないことになります。この点に悩みつづけて、この夏ついに到達した考えが「富山の置き薬」なのです。

 日本には、古来からのビジネスモデルとして、「富山の置き薬」があります。「富山の置き薬」では、行商の薬屋が顧客の家庭に常備薬を配置しますが、商品を引き渡しても、そのときには代金を徴収しません。1年後に巡回し、使用した商品があれば、その「消化した」ものだけについて代金を請求して、未使用の商品を引き取ります。顧客の家庭からすると、これはリスク・フリーであり、デパートの「消化仕入れ」と同じなのです。つまり、デパートの「消化仕入れ」の源は「富山の置き薬」であり、ともに同じビジネスモデルによっています。

 『会計』第158巻4号(2000年10月号)には、拙稿「消化仕入れの取引デザイン」が掲載されていますが、それは、日本的ビジネスモデルとして、これらの興味深い論点を扱っています。

◆会計文献タイトルデータベースが稼動を開始◆

 会計文献のタイトルをデータベースに蓄え、インターネットにおいてどこからでも検索できるようにするというは、この財務会計ラボにおいては、その開設当初からの夢でした。この夢を現実のものにするために、1998年に、SQLサーバーという巨大なデータベースを導入し、それ以来、プログラムの開発、テストラン、ソフトの修正など、悪戦苦闘をつづけてきました。しかし、システムはうまく動かず、なかばお手上げの状態になっていたのが実情です。インターネットをフロントエンドに、データベースをバックエンドにするという基本的なアイデアにはまったく問題はありませんでしたが、2つをつなぐCGI(Common Gateway Interface)にかんするわたしの技術が未熟で、インターネットとデータベースとが円滑に連動していなかったのです。

 この夏休みにeコマースのシステムを勉強していて、マイクロソフトが1999年春より提供しはじめた新技術、ASP(Active Server Page)によれば、サーバーサイドのスクリプトが簡単に書けることがわかり、目から鱗が落ちる思いをしました。Visual Basic(またはJava)でつづった簡単なプログラム(スクリプト)をハイパーテキストのなかに埋めておくと、ファイルの操作であれ、テーブルの操作であれ、ブラウザー側から簡単にサーバーを動かせるのです。昔にN88Basicでやっていたように、テキスト・ファイルの切り貼りなどが、インターネットをつうじて自由に行えます。しかもスクリプトのなかではSQLステートメントも実行できますので、大きなデータベースでも、なんなく取り扱えます。最近おおはやりのeコマースも同じ考えによるわけですので、このサーバサイド・スクリプティングの勉強のおかげで、eコマースのシステムがどう成り立っているのか、よく理解できるようになり、世界ががぜん広くなった感じです。歳は取っても、やはり勉強はしてみるべきです。 このサーバサイド・スクリプティングの技術をさっそく応用して、自力で作成したのが会計文献タイトル・データベースです。同じ名称の検索システムが従来にもホームページに掲げられていましたが、基本設計から組み直しましたので、たんなる「新装開店」ではなく、「新規開業」です。このデータベースのタイトル・データは、榊原絢子さんなど、今春卒業したゼミ生がAccessのテーブルに叩き込んでくれたものを転用しています。AccessのデータをSQLサーバーのテーブルにエキスポートし、SQLのテーブルにインターネット上から検索、登録ができるようにスクリプトを記述してあります。このスクリプトはWWWサーバーで管理していますので、インターネットをフロントエンドに、データベースをバックエンドにする理想的な連携関係が出来上がっているはずです。

 検索エンジンは手製ですので、動作が遅いうえに、ヒット洩れがでるのでは、という多少の不安ものこっています。しかし、これは改良の余地が大きいということでもありますので、さらに研究を重ね、しだいにグレードアップしていきたい、と考えています。データもしだいに増やしていきます。

 この会計文献タイトルデータベースには、検索画面のほかに、データ登録画面が準備されています。このデータ登録画面は、会計学にかんする著書、論文などを公刊したときには、著者の側において、そのタイトル情報をデータベースに登録するためのフォームです。セルフサービス方式になっていて、著者みずから、データを打ち込むことになりますが、公刊と同時にデータ登録をおこなえば、検索において最新のデータが捉まることになります。過去のデータもできるだけ遡及して入力しますが、このデータ登録にご協力いただければ、たいへんありがたいと考えています。

◆相互持合いの解消売り◆

この夏場も株価は冴えませんでしたが、その原因の1つは「相互持合い解消売り」だといわれています。相互持合いは、1960年代から1970年代にかけて、外国企業からの乗っ取りに対抗するとうスローガンのもとに、企業間において株式のはめ込みが積極的にすすめられてきました。この結果として、個人株主の割合が20%台にまで激減し、「企業の株主は企業」という異常な株式所有ができあがってしまいました。会社の金庫に眠る他社の株式は、累計すると膨大な金額にのぼりますし、他方では、株式市場で売買される「浮動株」が少なくなり、このため株価が乱高下するという現象も創出されていたのです。とことが、こんどは株式市場に株式を放出し、相互持合いを引き剥がすという動きが急速に拡がっています。これが「持合い解消売り」です。

相互持合いの株式は、株主側では投資目的の長期所有の有価証券として扱われ、その取得原価で評価されてきました。時価がどうなろうと無関係だとして、時価と原価の差額、つまり有価証券の評価損益は見過ごされてきたのです。しかし、最近では、投資目的の有価証券にも時価を適用し、この有価証券の評価損益を表に出させるという圧力が高まっています。

もっとも、金融資産には時価会計を適用するという会計ルールがすでに適用されていますが、この時価主義の適用対象となる金融資産は「売買目的の有価証券」が主で、子会社株式、投資目的の株式は除外されています。しかし、これら長期目的の有価証券についても、時価会計を適用する動きが拡がっていますので、相互持合いの株式も早晩時価評価の対象に組み込まれることにまちがいはないようです。「持合い解消売り」はこの動きを先取りして、株式の売却によって、いまのうちに損益を表に出しておき、時価評価導入時のショックを和らげる狙いがあるようです。いずれにしても、株式が市場に放出されると、市場の需給関係がわるくなって、株価は下がるという結果になります。

◆ネット・バブル◆

日本では「あやしい株式」とか「あぶない債権」は市場から締め出すという方針が、戦後半世紀の間、かたくなに維持されてきました。株式や債権を取引所に上場するには厳しい審査をパスしなければなりませんでしたし、上場会社でも、新証券の発行のつど、政策当局の「許可」とか「指導」を受ける必要があったのです。このため、きょくたんに品質の劣る証券が市場に出回ることはなく、投資家は安心して投資できる市場環境が整っていたといえます。 しかし、急速にすすむ規制緩和によって、この日本的な市場環境が一挙に崩れようとしています。新設市場の「東京マザーズ」でも「ナスダック・ジャパン」でも、赤字の会社が上場を果たしていますし、債務超過の会社さえ上場が認められる例がでてきています。市場に現れる証券には事実上スクリーニングがかからなくなってしまいましたので、「ボロ株」、「ジャンク債」などが大手を振って市場に出回ることになってきそうです。証券の品質がますます不確実になった結果として、投資家が引き受けるリスクはとほうもなく大きくなったのです。自己責任原則のもとにおいては、この巨大なリスクを背負うのは、投資家以外にないということになります。

この傾向がとくにいちじるしいのが「ネット・ベンチャー」です。ベンチャー・ビジネスにはインターネットにからむものが多く、インターネットを通じてニュー・ビジネスを展開している会社が多数輩出されています。これらの新興会社はソフトとか知的資産に資金を投下しますので、貸借対照表をみても、資産らしい資産はみあたらないことになります。R&D投資も、投資時に全額費用に落ちますので、損益計算書の帳尻は真っ赤です。しかし、それにもかかわらず、上場が認められていますし、株式を売り出すと、現にかなりの高価格で売れています。株式が高価格で売れると、多額の資金が旧株主、発行会社に流入し、億万長者も生まれます。

しかし、このような新興会社よる株式の売り出しには、問題が多すぎるという指摘もあります。この説によると、「実体をともなわない証券を売買するというのは一種の「バブル」なのであり、このバブルは、いずれははじけるというのです。アメリカでも、一度も黒字を計上したことのない新興会社なのに、そのネット・ベンチャーの株価が飛んでいる例が多数あります。これらは「ネット・バブル」ではないか、という声が湧いてきています。

◆次回の更新◆

秋はスポーツの季節で、運動会がたけなわです。みのりの秋には、くだものも豊かです。秋のひびを存分にお楽しみください。次回の更新は12月を予定しています。みなさん、ごきげんよう。

       2000年10月01日

              神戸大学財務会計ラボ  岡部 孝好