A Message from Webmaster
to New Version(April 1, 2001)
2001年04月版へのメッセージ
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1995年10月 ラボ開設のご挨拶
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Webmasterからのメッセージのバックナンバー[Backnumber]
◆六甲台は春の盛り◆
神戸大学の六甲台
キャンパスは、戦国時代の「赤松城」の城跡です。神戸港を望む高台にあって、その名の通り、赤
松が林立し、楠の巨木が天に向けてその枝を広げています。春には、梅、桃、桜と、切れ目なく花
が咲き乱れ、小鳥や蝶が舞っています。その六甲台は、いま春の盛りです。
六甲台では、ことしも卒業生を送り出し、新入生を迎えました。ご退官の3先生(田村正紀
教授、佐々木弘教授、Funk助教授)とお別れし、新任の2先生(音川助教授、宮原助教授)をお迎
えしています。改組のため、事務職員にも、かつてない大規模な異動がありました。春先はあわただしく、ものがなしい季節でもあります。
しかし、春の六甲台キャンパスには、学生たちの活気がみなぎっています。春の風と花のかおり
が吹き抜けています。いよいよ21世紀の最初の新学期のはじまりです。この財務会計ラボも、ますます頑張りますので、よろしく
お願いします。
◆谷端 長 先生(神戸大学名誉教授)逝く◆
谷端先生は大正8年8月31日、和歌山県古座町にお生まれになり、昭和18年に東京商科大学(現一橋大学)をご卒業。しばらく実務界にあられましたが、昭和26年に神戸大学経営学部に迎えられ、会計学の泰斗、山下勝治博士のもとで、ドイツ会計学の研究に従事。ディナミッシュ・ビランツの画期的な研究により、経営学博士の学位を受けられました。その成果を公刊した「動的会計論の構造」(森山書店、昭和33年)――その後増補して「動的会計論」――はいまも広く読まれている名著で、会計学会の高根に輝いています。
神戸大学では、山下勝治、丹波康太郎、久保田音二郎、溝口一雄、戸田義郎らとともに会計学の「神戸シューレ」を築きあげ、ドイツの「ケルン・シューレ」と並び称されました。神戸大学を定年によりご退官されてからも、大阪商科大学で学生の指導にあたられ、会計学教育にもご尽力されました。合掌
恩師、谷端 長(たにはた ひさし)先生が、2001年1月21日、肺炎により、自宅においてご逝去されました。享年80歳でした。同日をもって、正四位に叙せられました。
◆実証会計研究会の開催に向けて◆
(1)オープンな研究会とし、院生など若い研究者にも議論の場を提供する。
(2)報告者は実証会計にかんする任意のトピックを取り上げることができますが、報告するペーパーは自分
の研究でもよいし、他の研究者のペーパーのリビュー(つまり優れた文献を紹介し検討する)でもよい。
(3)統計的分析の場合には、モデル、データ、数値、インプリケーションを細かく検討し、日本における応用
の可能性を議論する。
日時 2001年5月26日(土)13:00−
場所 神戸大学内か梅田(参加人数などによって選定します)
報告者 応募者を受付中(okabe@kobe-u.ac.jp)
案内発送 4月26日ごろ、eメールにて
◆ハッカーの横行◆
財務会計ラボのバックボーンは「実証会計研究学会」(SOPAT)ですが、昨年度は、あまりもの多忙さにかまけて、
その研究会を開催することがほとんどできませんでした。しかし、この分野の研究は、ますます盛んにな
ってきていますので、再び立ち上げたいと思っています。
この実証会計研究会では、次のようなルールで研究会を運営しています。
まだ細部は決めていませんが、およそのスケジュールは次のようです。報告者は公募中ですので、ご関心の向き
があれば、お申し出ください。
他人のホームページに侵入し、ファイルをオーバーライトするというハッカーが横行していると
いう警告は、あちこちで聞いていました。しかし、わたしが関係するサイトに、まさかハッカーが
入ってくるとは、夢にも思っていませんでした。油断している間に、学部のサイトがやられたので
す。Index.htmというトップページが、侵入者によって書き換えられました。
ウイルスへの感染も他のファイルの消失も発見されていませんので、被害は軽微です。しかし、
やろうと思えば、wwwサーバー内の全ファイルを消せたわけですので、いたずらとはいえ、気分のわ
るい事件です。
このサイトも学部のサイトも、Windows NT(Ver 4.0)により、IISというソフトを使ってホー
ムページを動かしています。最新のサービスパック(SP6)によって、IISを最も安全な状態で運用
しているつもりだったのですが、それでもドロボーが進入してきます。マイクロソフトのサイトから
補正のプログラムをダウンして、とりあえず穴を塞ぎましたが、ドロボーはすぐに次の手を考えて、
またも攻めてくるでしょう。こまったことです。
◆新しい生産システムのEMSが拡がる◆
自社の工場を本社から分離し、製造受託専門会社として独立させるEMS(製造受託サービス)の動
きが電子機器メーカーの間に拡がって
きています。製造受託専門会社においては、本社からの製造委託を受けるほかに、他のメーカーからの
製造委託を引き受け、指定の仕様で製造を行うことになります。たとえばパソコンの場合、富士通であれ、NECであ
れ、東芝であれ、ソニーであれ、メーカーから注文があれば、生産を代行し、それそれのブランド
の製品を納入するのです。このEMSは、かつてOEM(他社ブランドの代行生産)の発展といえよう。
製造を受託すれば、設備、要員の遊び(アイドルキャパシティ)が減り、技術やノウハウが重複
して利用される。これがコスト削減に、したがって競争優位につながります。
他方、工場を切り離せば、本社はスリム化して、身動きが軽くなります。企画、開発体制は残るものの
、製造部門は消え、商社機能が中核事業となります。これもコストダウンと競争優位につながるといえます。
本社と製造部門が1つの会社の中で一体化されていたときには、本社(営業部門)と製造部門と
の間の製品の受け渡しはいわゆる内部取引であり、価格メカニズムが働いていません(擬似的な価格シス
テムである移転価格制度を導入しているところも多いが)。しかし、EMSによると、発注主のメーカ
ーと製造受託会社との取引は市場取引となりますので、価格システムが働く。売り手と買い手のせめぎあ
いの結果として市場価格が成立し、この市場価格によって優勝劣敗の淘汰がすすみます。この価格メカニ
ズムが働くのがEMSの最大の特徴といえます。
◆アメリカの新会計基準では「のれん」は非償却 ◆
FASBは企業結合(合併)会計の新基準(草案)を発表しましたが、その新基準では、「のれん」を無形固定資産に計上するものの、償却をさせないという方式に変わっています。ただし、この無形固定資産としての「のれん」には減損会計が適用され、減損の兆候があれば、その公正価値まで減額しなければならないことになっています。
企業結合(合併)の会計方法には「買収法」と「持分プーリング法」とがありますが、ビジネス界では買収法は評判がわるく、経営者は持分プーリング法を使いたがっていました。他方、会計規制主体、学会などは持分プーリング法を嫌っており、新しい会計基準では持分プーリング法を締め出すべきだという声が高まっています。
この大騒ぎの目玉は「のれん」です。持分プーリング法によれば「のれん」が簿外になるのに、買収法によると、「のれん」が表にでます。「のれん」を表に出すと、その償却(償却期間は現行40年と長い)が強制され、その償却費が利益を圧迫します。この償却費の重圧を経営者が嫌っているのです。
持分プーリング法を禁止して、買収法を強制する、というのが新会計基準の基本方針です。しかし、持分プーリング法を使えないとなると、合併のメリットが激減するから、アメリカにおけるM&Aのブームは終焉するだろうと推測されています。そうでなくてもアメリカ経済は沈静化してきていますが、新会計基準のためにM&Aのブームが去るようなことになると、経済の後退にいっそう拍車がかかります。経営者団体も、上院議員もこのように主張して、買収法の強制に反対しています。今回もまた、会計基準の制定が政治問題に発展しているのです。
筆者の憶測になりますが、「のれん」の非償却というのは、この政治的な動きの中における1つの妥協案ではないでしょうか。持分プーリング法を禁止して、買収法を強制すると、たしかに「のれん」は資産化されます。しかし、「のれん」を資産化しても、非償却とすれば、その償却費が利益を圧迫することは避けられます。「のれん」の償却が必要でないのなら、利益へのインパクトは持分プーリング法とさして変わらないことになるのです。基準設定主体では、買収法の強制ということで、筋を通すことができますし、経営者も、以前の持分プーリング法と同じような合併の効果を期待できますので、M&Aのブームに特に悪影響を及ぼすおそれもないことになります。
なお、この問題については、岡部孝好稿「利益数値制御行動としての持分プーリング法の適用」、『会計』(2001年3月)を参照してほしい。
◆株式の相互持合いの功罪 ◆
最近の株式市場には大量の売り注文が出ており、少しでも値が戻りはじめると、戻り待ちの売り注文によって、すぐに押し下げられてしまう。日経ダウは、いちじ12,000円台を割り込む水準まで、落ち込みました。この原因としてとりざたされているのが「持合い解消売り」です。解消を急がなければならない「相互持合い」とは、いったい何だったのでしょうか。
昭和40(1965)年代、「資本の自由化」という前代未聞のテーマが現れ、外国人による日本企業への株式投資の途が開かれました。いまでこそ、外国人の持株比率が高いことは自慢の種ですが、当時では、外国人の株式取得は「乗っ取り」のはじまりとみられ、だれもが恐れていたのです。その対策として「乗っ取り防止」が喫緊の課題になり、知り合いの会社どうしで、相互に株式を持ち合うことになってしまいました。親しい日本企業に持ってもらえる株式の比率が50%を超えていれば、いかなる事態になろうとも、「乗っ取り」は阻止できるのです。
株式の相互持合いは、会社が互いに株主となるということであるから、株主会社どうしの間において協調行動が促されることはたしかです。コミュニケーションが盛んになり、情報が共有されます。連携行動によって取引がスピードアップされ、コンフリクトの発生が防止されますから、取引コストが節約されます。取引相手の株式をもつということは、その会社を「所有する」ということであり、「所有」はインセンティブを変えて、取引相手を「手助けしたい」という動機を育てます。日本にはkeiretuとして、海外にも広く知られている取引ネットワークが存在しますが、その多くは相互持合いに支えられているといえます。
◆次回の更新◆
2001.04.01
神戸大学財務会計ラボ
岡部 孝好
okabe@kobe-u.ac.jp
okabe@kobebs.ne.jp
相互持合いになると、株主会社は「無言の株主」になって、会社の経営に苦言を呈するようなことはなくなります。このため、経営者は周囲を気にすることなく、思うように戦略をきめることができます。これが、日本的経営を特徴づける長期的視野に立ったマネジメントにつながった、といえます。
しかし、50%以上の株主が無言ということは、経営者に「緩み」をもたらしたことは否定できません。経営者の行動を監視し、締め付けるという株主のコントロール機能は後退して、日本企業の競争力を低下させたのです。いま、会社ガバナンスがとやかくいわれているが、それは相互持合いに起因するものといえます。
相互持合いの株式は売ってはならない株式であり、株主会社では金庫の中で眠らせています。この株式は市場には出回らない株式であり、株価の形成には参加しない株式になっています。市場で実際に売買されている株式は、相互持合いではない少数の株式ですから、株価の変動は粗くなるし、株価水準も高く吊上げられることになります。いいかえると、相互持合いが行われている場合には、株価の形成はいびつになっていているのです。日本の株式市場は「鉄火場」で、リスクが高いという外人投資家が多いが、その背景には相互持合いによって、株式の総量が削減されているという日本的事情があるわけです。儲けのチャンスも多いが、損をする危険も大きいのです。
いずれにしても、長年にわたって維持してきた相互持合いを止めて、保有株式を一挙に市場に出すという。その量はとほもなく多いはずだから、日経ダウが下がるというのは、あたりまえといえば、あたりまえのことになります。
春は
1年を通じて、一番いい季節です。仕事にもいいし、テニスにもいい。この春の日を
存分にお楽しみください。次回の更新は、5月の連休明けを予定しています。ごきげ
んよう、さようなら。