Littleton, Ananius, Charles Acoounting Evolution to 1900,
(Russell and Russell, 1933.)
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片野一郎 訳, 清水宗一 助訳 リトルトン 会計発達史 (初版 昭和27年)
(同文舘出版)
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A. C. Littleton(1886.12.04-1974.01.13)は1930-40年代に大活躍したイリノイ大学教授であるが、アメリカの会計原則制定運動をリードした影響力の大きい
会計学者だとして日本でも広く知られるようになったのは、おそらくは1950年代になってからのことである。第二次世界大戦後においては極端な外貨
(USD)不足が生じたため、日本の会計学者が欧米へ留学できる機会はきわめて限られていたが、その貴重な在外研究の機会に恵まれた幸運な会計学
者たちは、まずイリノイ大学ウルバナ学校を訪ね、高名なLittleton教授の研究室のドアをノックするのが通例であった。
いわゆる「イリノイ大学詣で」の始まりである。
A. C. Littletonが退いた後、イリノイ大学の会計学の伝統を引き継いだのが、V. K. Zimmerman教授である。このV. K. Zimmerman教授も日本人留学生を暖かく迎え
入れ、不慣れな在外研究を強くサポートしてくれるのが常であったという。こうした2世代にわたる手厚い処遇の結果として、
「イリノイ大学詣で」はその後もつづき、「イリノイ大学は第二の故郷だ」という日本人の会計研究者は、いまでは相当な数にのぼっているものと思われる。
このような多数の日本人の会計研究者をイリノイ大学に結び付け、その橋渡しの役割を果たしたのが名著『リトルトン 会計発達史』にほかならない。日本語への訳者の片野一郎先生は一橋大学教授、助訳者の清水宗一先生は関西大学教授であるが、お二人の間には師弟関係とか、職務上の繋がりなどがあったわけではなく、それぞれが独立に翻訳作業をすすめてきたことの結果として、こういう形で翻訳権を一つに統合せざるをえなかったということである。

『リトルトン 会計発達史』というのは簿記から会計に至る発展を歴史的に追ったものであり、単なる「簿記の歴史」にとどまるものではない。15世紀末のイ
タリアにはすでにほぼ完成された形の複式簿記が存在していたが、それが産業革命後の西欧のビジネスと結合し、20世紀になって「会計」という形で、枝の先
々に花を咲かせ、実を結んだ、そのプロセスを追い掛けているのである。ここに「会計」というのは、財務報告と監査だけでなく、原価計算、予算統制など、会
計学全般をカバーするものであるから、A. C. Littletonが思い描いている"Acoounting Evolution to 1900"というのは、「複式簿記」という1つの
根幹から会計学全般に向けての発展が、1500年から1900年の間に推し進められたということらしい。ここに発展というのは"Evolution"であって、"Revolution"
ではないのだから、複式簿記を基幹とする発展に断絶、屈曲、変質などが含まれているようなことはありえない。
わたしはA. C. Littletonにお会いする光栄に浴したことはないが、おそらくはA. C. Littletonほど学者らしい学者は会計学会には類をみないのではなかろうか。歴
史学者はみなそう務めているいるのかもしれないが、A. C. Littletonほど歴史の原資料を丁寧に取り扱っている研究者がそれほど多くいるとは思えない。古いナ
マの資料をジカに検討して、その歴史的意義を個々に評価して、そしてこの著書の中で、それもほんの数行で取り上げているのである。この著書には取り上げ
られずに終わった資料も多数あったはずであるから、机の周りには資料の山がいくつもできていたにちがいない。原資料のこの検討作業のために、A. C. Littletonが
費やした時間とエネルギーがいかほどであったは想像を超えている。まさに、この著書は「汗の結晶」なのである。
A. C. Littletonはまた哲学者であり、透徹した目をもって1つのことを最後まで追いかける会計学者であった。A. C. Littletonは歴史的原価基準に対する徹底的な擁護者として知られ
ているが、それは原価と時価を比較して原価の方が役に立つ、といった安直な考えによるのではない。A. C. Littletonにとっては、「取引価額」とか「投資額」と
いうのは何か特別の含意をもったものであり、いかに形を変えようが、帳簿上で漏れなく追跡するに値するものなのである。財・サービスに向けていったん貨幣
が投下されると、その歴史的原価は事実として確定し、拭っても消し去ることのできないものとして焼き付いてしまう。歴史的原価会計というのは、そういう重
みをもった数値を組織的に追跡する記録システムなのであり、この点で複式簿記と不可分の関係にある。『リトルトン 会計発達史』には、こうしたA. C. Littleton
の性格が凝集されているように思える。