会計学の名著を訪ねて


     OBE Accounting Research Lab



 岩田巌 著『利潤計算原理』

  岩田巌(1905-1955)先生は第2次大戦前に東京商大(現一橋大学)をご卒業の後、同大学助教授、同大学教授をへて、学制改革により 戦後は一橋大学教授をお勤めになられたが、50歳そこそこの若さで他界されてしまった。会計学の天才で、戦前・戦後を通 じて師の太田哲三博士とともに日本の会計理論の発展をリードされてきた。黒澤清博士などと「企業会計原則」、 「監査基準」の起草にあたり、日本の会計制度の確立にも多大な貢献をなされている(略歴は『会計学辞典』(同文 舘出版)を参照されたい)。

  岩田先生の代表的著作といえば、何といっても岩田巌著『利潤計算原理』(同文舘、昭和31年3月3日)ということになる。 昨今では国際的コンバーゼンスの流れを受けて、資産・負債アプローチがかしましいが、この論争は半世紀前の動態論・ 静態論の議論と重なっているところがある。そこで、岩田巌著『利潤計算原理』を書架から下して、埃を払ってみるこ とになったのだが、読んでみて、あらためて新鮮な感銘を受けた。動態論と静態論とは貸借対照表に対する解釈が根本 から対立するが、この対立は同じ貸借対照表を違ったふうに理解したことによるのではなく、まったく別個の貸借対照表 を見ていたことによるというのである。

「上述の本質観は一つの貸借対照表に対する二つの異なる見方であると一般に信じられている。だがこう思い込んでいる ところに根本的な誤謬がある。両者は一つの貸借対照表を問題にしているのではない。それぞれ別の貸借対照表を問題に しているのである。企業会計には計算上の貸借対照表と事実上の貸借対照表の二種が存在することはすでに繰返して述べ たところであるが、二つの貸借対照表学説はそれぞれこのうちの一つの考察の対象として取りあげているのである。」 (84頁)

「観察の対象がまったく別物なのである。本質観が異なるのはけだし当然のことであろう。(改行)対立の根源が異なる ことに気づかないで、あたかも同一の対照表を問題にしていると思込んでいたところに、紛糾の根本的な原因があったの である。それは企業会計における利潤計算の二元的構造を見究めなかった結果である。」(85頁)

  最近の資産・負債アプローチは、収益・費用アプローチとの対比において、会計への見方を根本から覆すものされること が多い。しかし、資産・負債アプローチから見ている貸借対照表と収益・費用アプローチから見ている貸借対照表はまっ たく違うもののようであるから、二つの貸借対照表は別物とみるべきではないであろうか。もしそうであれば、半世紀前 の岩田巌説が甦ってくることになる。


2011.01.01-

OBENET

代表 岡部 孝好